2016 Fiscal Year Research-status Report
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25370366
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Research Institution | Kobe City University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
北見 諭 神戸市外国語大学, 外国語学部, 教授 (00298118)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ロシア思想史 / ロシア哲学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度はニコライ・ベルジャーエフの戦時期の思想の研究を行った。ベルジャーエフの戦争論、そしてその背景にある彼のロシア時代の著作の全体を検討し、さらにはベルジャーエフ以外の思想家たち、エヴゲーニー・トルベツコイ、エルン、ブルガーコフ、フランク、ヴャチェスラフ・イワーノフなどの戦争論も検討し、いわゆる「ロシア宗教哲学ルネサンス」の戦争論全体を俯瞰的に捉えるとともに、それを背景にベルジャーエフの戦争論の独自性を明らかにするように努めた。 それによって明らかになったのは、この時代の多くの宗教思想家たちがロシアの宗教的な保守思想に付きまとってきたナショナリズムやメシアニズムの傾向を批判し、そうした傾向を回避するようにして新たな宗教的な戦争論を構築しようとしているのに対して、ベルジャーエフはそうした同時代の主流の傾向に批判的であり、時代の流れに逆行するように帝国主義やメシアニズムを主張する戦争論を展開しているということ、しかし、こうしたベルジャーエフの反時代性は、戦争という時代状況に流されて刹那的に形成されたものではなく、生の哲学の流れを汲む彼自身の哲学思想を基盤にして成立したものだということである。そしてそうした観点からみると、他の思想家たちの戦争論もプラトニズムの流れを汲む彼らの哲学思想と密接に結びついていることがわかり、両者の戦争論の差異が、両者の哲学思想の差異を完全に反映していることが明らかになる。 ベルジャーエフもその他の思想家たちも第一次世界大戦に宇宙論的な意義を見出し、自身の哲学思想の全体を投影してこの戦争を意味付けようとしていた。そうした観点からこの時代の宗教思想家たちの戦争論の全体を俯瞰的に捉え、それらの戦争論の意味を解明した本論は、これまでそうした研究を持たなかった20世紀ロシア思想史研究にとって重要な意味を持つはずである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
最初の三年間はいくぶん遅れ気味であったが、フランクの哲学思想、およびブルガーコフの哲学思想の研究を終え、戦争論の研究に入ってからは、これまでの研究の蓄積もあって、それを背景に順調に研究を進めることができている。 また、最後の二年間の研究は、四年目が戦争論の研究、最終年度が主体にかかわる思想の研究というように当初予定を立てていたが、主体にかかわる問題は戦争論に比べて規模の小さな問題で、独立して研究する必要がなく、戦争論の一部としてその中に繰り込んだほうがよいということが明らかになった。 そのため、昨年度の後半に、残り一年半程度の研究を当初予定から変更して計画を再編し、残りの二年間を使って戦争論を研究すること、そしてその一部として主体の問題に関わるロシアの宗教思想の研究を行うことに決めた。こうした研究の変更によって時間的に余裕が生まれ、それまでわずかに遅れていた計画を取り戻すことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は最終年度となる。当初の計画で予定していたことでまだ取り掛かっていない問題に着手するとともに、5年間の研究をまとめ、成果を形にする作業も始めることにしたい。 まず、前年度から行っているロシアの宗教思想家たちの第一次世界大戦期の思想の研究を継続し、このテーマでの研究を完成させなければならない。まずはヴチェスラフ・イワーノフの戦争論における主体の問題を、彼の悲劇の理論におけるコロスの問題や詩人による神話創造の問題との関連で読み解く作業を行う。そしてそれに続いて、第一次世界大戦期のロシアの保守思想と第二次大戦期の日本やドイツの保守思想の間には明らかに重なるところがあると考えられるので、それについて可能な限りでの調査を行うことにしたい。 そうした作業を終えた後、あるいはそれと並行して、夏ぐらいまでに、ロシアの思想家の中でもとりわけベルジャーエフの戦争論に焦点を当てて論文を執筆する予定にしている。前年度の研究でベルジャーエフに関わる文献についてはほとんど調査を終えることができたと考えているので、論文を執筆する過程で必要な文献が新たに現われた場合には、それらにも対応しつつ、論文の執筆を進めていくことにしたい。 夏までに論文の執筆を終えることができたた場合には、その後、残された時間は、今回も含め、10年間にわたる二度の科研費研究で行ってきた研究をまとめる形で、博士論文(及び著書)を執筆するべく、それに向けた準備にあてることにしたい。これまで執筆してきた論文の見直しの作業を行い、必要に応じて追加の調査や加筆修正を行うとともに、序文の執筆など、必要な作業を行っていくことにしたい。
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Causes of Carryover |
購入を予定していた書籍が年度内に入手できなかったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
当該の書籍を購入する予定。
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