2015 Fiscal Year Research-status Report
語り得ぬものの言語論 ― 18世紀ドイツ語圏における「沈黙」の系譜
Project/Area Number |
25370369
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Research Institution | Kunitachi College of Music |
Principal Investigator |
宮谷 尚実 国立音楽大学, 音楽学部, 准教授 (40386503)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 言語思想 / ヘルダー / 18世紀言語論 / 沈黙 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、18 世紀ドイツの言語思想史において従来看過されてきた「沈黙」の意味に着目し、特にハーマン、ヘルダー、W. v.フンボルトの言語観の系譜においてその意味を見直すものである。「沈黙」の諸相について、古典修辞学から、詩学、解釈学、現代における言語論や文化学、翻訳学に至るまで諸領域を考慮に入れつつ分析し、現代の言語や文化を理解するために持ちうる有効性を探り、異文化間コミュニケーション理解の一助とすることを目的としている。 前年度にハーマンにおける沈黙の諸相を分析したので、当該年度はヘルダーの著作の分析を試みた。特に、人間の言語がいかに「発明」されたかを問う『言語起源論』に着目し、言語をめぐる言説のなかで「沈黙」がどのような役割を果たしているかを以下の3点として分析した。1)聴取のための沈黙 は、人間の認識活動の基礎となっており、2)思考のための沈黙 により、対象物が意識化された結果「魂の言語」となる。この言語は音声として発せられる「外的言語」から区別されて「内的言語」とも呼ばれる。この「魂の言語」が人間を人間たらしめ、言語活動へと至らせたとヘルダーは論じている。こうした沈黙から言語へ至るプロセスをはヘルダーの文体においても 3)沈黙の記号 によって表されている。最も特徴的なのは、人間の言語が誕生する瞬間に関する記述の直前にダッシュ記号「―」が置かれている点である。この記号は翻訳の際に看過されがちであるが、本研究からこれまで認識されていた以上の意義が確認できた。今年度は以上の内容を研究成果として研究紀要にて公表した。 未公表の研究としては、引き続きW. v. フンボルトの言語論に関して調査を続けている。また、神秘主義との関連については当初の想定以上に慎重な研究が必要となることが調査過程で明らかになっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度に予定していた研究内容に関する紀要論文を公表できたため、その規模は大きくはなかったものの、おおむね順調な進捗状況といえる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は特にW. v. フンボルトの言語論とその時代の言語論を軸として研究を進める。また、神秘主義、ルター、ライプニッツなど、18世紀に至るまでの系譜を描写するための基礎調査と、19世紀以降の流れを把握するための文献調査も引き続き行う。
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Causes of Carryover |
予定していた人件費および謝金が発生しなかったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度の物品費に使用する予定。
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