2016 Fiscal Year Research-status Report
語り得ぬものの言語論 ― 18世紀ドイツ語圏における「沈黙」の系譜
Project/Area Number |
25370369
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Research Institution | Kunitachi College of Music |
Principal Investigator |
宮谷 尚実 国立音楽大学, 音楽学部, 准教授 (40386503)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 沈黙 / ヘルダー / オラトリオ / 言語論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、18世紀ドイツの言語思想史において従来看過されてきた「沈黙」の意味に着目し、特にハーマン、ヘルダー、W. v.フンボルトの言語観の系譜においてその意味を見直す試みである。この再検討を手掛かりとし、現代に至るまでの言語思想の歴史記述に「沈黙」というテーマを新たに組み入れることを目的としている。 本年度の実施計画は、前年度までに明らかになった「沈黙」の意義を踏まえ、特に18世紀から19世紀のドイツ文学をモデルとしたケース・スタディーである。文学作品における「中間休止」に着目し、その「沈黙」が日本語に翻訳されるプロセスでどのように処理されてきたか、あるいは翻訳されなかった場合の問題点を明らかにすることはすでに前年度に終えている。ヘルダーの『言語起源論』における「沈黙」の意義を吟味し、この著作を文学作品として分析し、ダッシュ記号をいわば詩作品における「中間休止」記号として新たに意味づけた。これにより既存の訳からは見えなかった「沈黙」理解が可能になった。そこで本年度は、ケーススタディーとして、ヘルダーのオラトリオ《おさなごイエス》の分析を行った。この作品は『言語起源論』とほぼ同時期に成立しており、前年度の研究からの発展として適切な事例になった。これまでドイツ語圏においても、ヘルダー研究および周辺分野の研究においても看過されてきたこの作品では、本来テキストがあるが歌詞として歌われない、すなわち「歌詞の意図的な沈黙」という現象があり、これまでの調査分析とは違う型の「沈黙」が明らかになった。また『言語起源論』と同様にダッシュ記号が効果的に「沈黙の記号」として用いられている。この作品には日本語訳が存在しないので翻訳という観点での検討はできなかったが、草稿から印刷版に至るプロセス、さらにはその印刷用原稿から歴史批判全集版に至るプロセスでダッシュ記号における変更が確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画に沿った内容で査読のある国際学会誌への投稿ができた点では非常に順調に研究が進んでいるとは言える。しかし、19世紀のW. v. フンボルトの言語論にまで研究範囲を拡げるところにまでは至らず、日本における「沈黙」との比較研究という点で具体的な成果をあげるには予想以上に時間が必要となることが判明したため。
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Strategy for Future Research Activity |
「進捗状況」の欄に記載した通り、W. v. フンボルトの言語論における沈黙の意義や、日独比較研究まで範囲を拡げた研究の遂行は当初の計画以上に時間が必要となる見込みである。そのため今年度は、さまざまな側面や層を内包する「沈黙」概念から考察対象をBesonnenheitに絞り、その系譜を概念史的にまとめるのが現実的であると考える。当初は今年度に研究成果を出版する予定であったが、文献学的研究に必要な資料の収集を含め、出版準備を可能な限り進めることに集中する。
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Causes of Carryover |
本助成金による研究を継続して国際学会誌への投稿も行ったが、当該年度はフンボルト財団研究員としての在外研究期間であり、当該年度分助成金からの支出は生じなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度の研究実施計画にも記載したとおり、今年度は当初予定していたよりも文献調査の必要があることから、翌年度分として請求した助成金と合わせて現地における資料の収集および調査のための支出を予定している。
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Research Products
(1 results)