2015 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
25370371
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Research Institution | Senshu University |
Principal Investigator |
石川 達夫 専修大学, 文学部, 教授 (00212845)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | チェコ / 中欧 / ハプスブルク / 笑い / クロウトヴォル / トランスナショナリティー / マージナリティー / 多文化社会 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度(2013年度)から取り組んできた、重要な中欧論であるヨゼフ・クロウトヴォルの『中欧の詩学――歴史の困難』の精読と訳出を終えて、最終年度(2015年度)に法政大学出版局より出版した。この本には、石川達夫「「想像の共同体」としての中欧――トランスナショナリティーとマージナリティー」という論文を書き下ろして付け、ここで中欧の精神風土、チェコ文化の特徴、チェコ的笑いについて論じた。この本は朝日新聞の書評欄で取り上げられて紹介されるなどして話題を呼び、中欧人と中欧文化の独特の性格についてこの本を通じて日本でも理解が深まったと思われる。 最終年度はまた、石川達夫「チャペックとマサリク――キュービズムと多文化社会」『現文研究』を発表し、両大戦間チェコスロヴァキアの多文化社会的状況から生み出されたチェコ文化の特徴について論じた。これよって、中欧の精神風土とそこから生まれた文化、とりわけキュービズムの特徴を、チェコ人、スロヴァキア人、ドイツ人、ユダヤ人、ロマなどが共存する多文化社会的状況という観点から明らかにした。 2014年度に出版した『プラハのバロック――受難と復活のドラマ』(みすず書房)において明らかにしたチェコ文化の「二枚舌」的性格と共に、本研究全体として、中欧の精神風土の特徴をかなり明らかにできたのではないかと思われる。 ただ、3年間という研究期間は、かなり大きなテーマである本研究にとっては短すぎて、当初計画していたクンデラ、シュクヴォレツキー、フラバルといった作家たちの作品の具体的な分析を通して中欧の精神風土とチェコ文化の笑いを明らかにするという所までは、残念ながら至らなかった。もっと研究期間を長く取るべきだったというのが反省点である。研究期間は終わってしまったが、具体的な作品を通した分析を今後も続け、最終的には研究全体を研究書にまとめて出版したいと考えている。
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