2014 Fiscal Year Research-status Report
越境とリミックスの世界文学:東欧ユダヤ人作家ロマン・ガリを手掛かりに
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25370376
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Research Institution | Japan Women's University |
Principal Investigator |
高頭 麻子 日本女子大学, 文学部, 教授 (60287795)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ロマン・ガリ / ユダヤ人作家 / 越境文学 / 20世紀文学 / 多言語 / 地中海 / 文学と映画 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の最終目的は、近代の国民文学・オリジナリティ追求が行き詰まり、国家・言語・性・人種の越境と混交が進む現代において、既存のものの模倣・翻訳・翻案等々(本研究では「リミックス」と呼ぶ)であった近代以前の文学観に立ち帰り、リミックス概念を方法論的軸として、「世界文学」の新しい可能性を構想するものである。 26年度は、ロマン・ガリが少年期を過ごし、母親がそこで最期を迎え、ガリ自身2度の結婚相手と何度も滞在し、作品にも多く語られている地中海地域を中心に、現地調査と先行研究・ガリ自身の作品を読んで研究・考察した。 1.作家ガリのアイデンティティ形成の基礎となったニースでの少年期を、現地調査と自伝的作品の分析、先行研究の検討を元に考察し、その結果を総合社会科学会の学会誌『総合社会研究』第3集7号(27号)に発表した。2.ガリが最初の妻と所有し、外交官の仕事の合間に訪れては滞在、執筆活動に専念したロックブリュヌを現地調査し、その地の独特の雰囲気が重要な役割を担う小説Les couleurs du jour』(1952)と、それを27年後に書き変えた小説Les clowns lyriques(1979)について、雑誌『ふらんす』のロマン・ガリ生誕100年特集に寄稿した。3.今回成果をまとめるには至らなかったが、ガリがフランスの外交官として最初に赴任し、ソ連による東欧への圧力の始まりを象徴するような政治家粛清を目撃したブルガリアを現地調査し、ガリ作品のブルガリア語への翻訳者、Zornica Kitinska(ゾルニツァ・キティンスカ)氏と意見交換をした。4.ガリが2度目の妻や息子とともに何度も滞在したマヨルカ島の現地調査を行った。5. 2014年は生誕100周年であったため、新たなガリ自身の著作・講演の刊行や、研究書・雑誌特集号などの刊行も盛んに行われたため、それらを収集した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
主な理由は、①昨年すでに遅れてしまっていること、②研究すればするほど、彼の行動範囲の広さ、人間関係の複雑さ、言語表現の多彩さ、アイデンティティの不確かさが明らかになり、容易に把握しきれないこと、である。そのため、当初の予定では、2014年度は、ガリの第2次大戦後を研究するつもりであったが、彼の作品・生き方の基盤を形成したと思われるニースでの少年期を中心に研究することになった。2014年研究計画のうち、 1)私生活の軌跡と作品の関係を探ることに関しては、18 年間を共に生きた最初の妻による、Lesley Blanch,Romain,un regard particulier,2009 などの回顧伝や、アメリカ人女優ジーン・セパーグとの2 度目の結婚から生まれた一人息子が書いた自伝的小説Alexandre Diego Gary,S.ou l’espérance de vie,2009 から彼の私生活での姿を読むことはできたが、それをまとめるまでには至らなかった。 2)英語作品や映画化など、アメリカ文化との関係、3)さまざまなペン・ネーム、とりわけ晩年のÉmile AJAR としての作家活動の2つについて研究するまでには至らなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度となり、残された1年間で作家ガリの①世界各地での活動と執筆、②2度の結婚生活や外交官生活と文筆活動の関係、③英語・フランス語での執筆・翻訳、④異なるペンネームの使い分け、⑤文学と芝居や映画制作との関係の全容を研究し尽くすことは難しいが、研究途中の①②を継続するとともに、2015年度は③を主に研究したい。具体的には、 1)ガリがフランスの外交官として勤務したニュー・ヨークとカリフォルニア州の現地調査をし、フランスよりアメリカで作品を評価されアメリカ文化の中で生きた時代の公私の生活を、作品やアメリカの雑誌などから読み取る。2)英語で書いた後、自らフランス語に翻訳した作品や、フランス語で書いた後、自ら英語に翻訳した作品について、翻訳による内容の差異や、ガリにとっていずれも母語ではない英語・フランス語の使い分けを分析する。3)「世界文学」構想の第一歩として位置づけた本研究の最終年度なので、研究協力者たちと研究の成果を発表し合い、より大きな文学の字空間を探求する方向性を見出したい。4)2014年度までの上記①②の研究を継続的に発展させ、アメリカ現地調査や自伝的作品・他者による評伝により、本研究の成果として予定する評伝執筆の構想を練るとともに、5)本研究の最終的な目標である報告論文に向けて、2014年度の計画でありながら実行できなかった、ガリのさまざまなペン・ネームと、作家として、また人間としてのアイデンティティの模索の関係を探り、とりわけ自殺に至る晩年のエミール・アジャール事件を分析も試みる。
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