2014 Fiscal Year Research-status Report
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25370377
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
桑瀬 章二郎 立教大学, 文学部, 教授 (10340465)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ルソー / 社会契約説 / 一般意志概念 / 教育哲学 |
Outline of Annual Research Achievements |
1, 本年度は、昨年立てた予定通り(昨年度の実施状況報告情報参照)、「嘘」という観点から、『社会契約論』の精緻な読解を試みた。これには2014年度3月に立教大学で開催した、日本を代表する啓蒙思想研究者たちとのシンポジウム「来るべき一般意志」の成果の一部が盛り込まれている。『社会契約論』は近年再び注目を集めており、膨大な数の研究が発表され続けているが、本研究はそれらを参照しつつ、だがまったく新たな観点からひとつの読解を提示しえたものと確信している。より正確には、本研究は政治的術策としての欺瞞と人民の自己欺瞞という観点から『社会契約論』という名高い書物を読み直すという試みであるが、それと同時に、極めて複雑な「一般意志」概念についての再検討ともなっている。 2, さらにはルソーの主著、『エミール』についても「嘘」という独自の観点からひとつの解釈を提示することができた。『エミール』に関しても、近年無数の注目すべき研究が次々と発表されているが、そうした研究のみならず、いわゆる古典的研究をも視野におさめつつ、独創的な解釈を提示しえたと信じている。この論文は狭義の(とりわけ日本の)教育学における『エミール』解釈に対する疑義表明ともなっている。 3, 最後に、リヨン大学で行われた国際シンポジウム報告書(共著書)を刊行したが、そこでも、ルソーが18世紀フランスで、まさに「嘘の思想家」として告発された「事実」に光を当てることによって、この思想家において、「嘘」が、その受容過程でも決定的主題となっていることを示すことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究はいくつかの点で予定変更を余儀なくされたが、全体として計画通り進行している。予定変更とは、所属研究機関の特殊事情により、フランスでの集中的な資料収集、ならびに研究報告を行えなかったことを意味する。実際、スイスで刊行されている学術研究誌から『社会契約論』の「嘘」に関する研究の寄稿を求められたが、その論稿に関しては執筆に、日本のいかなる研究機関にも所蔵されていない文献を多数閲覧・複写することが不可欠であり、最終的に寄稿を断念せざるをえなかった。ただし、フランスでの資料収集、研究報告が行えなかったかわりに、日本での研究をいわば前倒しで進行させることができた。それが上述の『エミール』に関する論稿として結実している。
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Strategy for Future Research Activity |
上記の通り、日本(語)での研究については、当初の計画以上に進展しているので、さらに先へと進み、これまでの研究についてまずは、(とりあえずの)綜合的概観=結論となるような研究を準備・発表できるようにしたい。それと同時に、次年度は是非とも、本年度実施できなかったフランスでの集中的な資料収集を行い、日本(語)以外での研究発表を行いたい。もう一点、研究を進める過程で、政治哲学(理論的著作)、論争的弁明的著作、いわゆる教育哲学的著作、女性論関連著作が、ルソーの自伝的企図の総体と密接に連関していることが明らかになってきたため、その点についてもさらに研究を発展させたいと考えている。
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Causes of Carryover |
本年度、所属研究機関の特殊事情により、フランスでの集中的な資料収集、ならびに研究報告を行えなかった。本研究遂行のためには、とりわけ日本語以外での研究報告作成には、エコール・ノルマル図書館だけでなく、フランス国立図書館などでの集中的な研究調査が極めて重要である。また、同じ理由で、国際シンポジウムへの参加要請も断らざるをえなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は、是非とも、昨年度実施できなかったフランス(もしくはスイス)での集中的な資料収集を行い、日本(語)以外での研究発表を行いたい。また前述のように(「現在までの達成度」欄参照)、本年度は、スイスで刊行されている学術研究誌から『社会契約論』の「嘘」に関して寄稿を求められたが、寄稿を断念せざるをえなかった。こうした情報発信の機会を活かせるよう、使い慣れた(さらには複写やスキャンについて許可を得やすい)エコール・ノルマル図書館で、準備を進めたい。
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