2015 Fiscal Year Research-status Report
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25370377
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
桑瀬 章二郎 立教大学, 文学部, 教授 (10340465)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ルソー / フランス思想・文学 / 啓蒙思想 / フェミニズム / 演劇 |
Outline of Annual Research Achievements |
2015年度はこれまで日本語で『思想』(岩波書店)に連載してきた原稿をもとに、それに加筆修正を行い、『嘘の思想家ルソー』として、2015年10月に同書店より刊行した(岩波現代全書75)。この作業において最も重要であったのが、「研究実施計画」で示した「女性の嘘」についての考察である。「女の嘘」と題された同書第六章は書き下ろし原稿であり、これは、ルソーの女性論をめぐる最先端の欧米の主たる研究を紹介・批判的検討しながら、この思想家の、今なお激しい議論の続く(あるいは評価のわかれる)女性論に、「嘘」という観点から、新たな光を当てる試みであった。 また『嘘の思想家ルソー』は、これまでの個別的研究成果を、統一的な「書物」としてまとめ、「岩波現代全書」という一般読者に向けて差し出す試みであった。これにより、ここまでの研究成果に有機的統一性を付与し、「研究の目的」をより明確にできたと考えている。 さらに、同書、とりわけ第六章を準備する過程で、ルソーとその同時代の作家・思想家との明示的・暗示的対話の重要性が明らかとなった。そのため、シャルダン、モンテスキュー、マリヴォーといったルソーに決定的影響を与えた作家のテクストについての研究を進め、この研究の一部を「マリヴォーと「肖像」」と題する論文として発表した。『嘘の思想家ルソー』では美学・音楽関連著作を分析対象から除外せざるをえなかったため、これは本研究の補完的、発展的成果として極めて重要なものと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
『嘘の思想家ルソー』は、これまでの個別的研究成果を、統一的な「書物」としてまとめた、という点で、極めて重要な意義を持つ仕事であった。この一部には、「おわりに」として、「研究実施計画」で、平成28年度に実施予定とした、自伝的著作についての分析も含まれている。ただし、この日本語での執筆作業に集中したため、フランス語での成果公表を行えなかった。総合的には、日本語での研究が「計画以上に進展」しているのに対し、フランス語での成果公表は「やや遅れている」と言える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、「研究実施計画」にある通り、自伝的著作についての研究をさらに進める予定である。「現在までの進捗状況」に示した通り、この問題は、『嘘の思想家ルソー』ですでに取り上げたが、「岩波現代全書」というシリーズの制約(とりわけページ数)から、簡単に触れるにとどめざるをえなかった(この問題を論じた「おわりに」はわずか13ページである)。自伝的著作における「嘘」の問題は、本研究の核を成すと言ってもよいが、これについてより精緻な論考を準備したい。また、同書執筆に集中するため、遅れることになったフランス語での成果公表を実現したい。
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Causes of Carryover |
渡航前にさまざまな情報収集を行い、より効率的なものとすることのできた、エコール・ノルマル図書館での研究調査によって、主に図書購入費を削減することができたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
当初計画では、平成28年度は、エコール・ノルマル図書館、フランス国立図書館での研究調査を予定していなかったが、平成27年度同様、フランスでの短期間の集中的な研究調査を行いたい。
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