2014 Fiscal Year Research-status Report
未完小説の物語上のテーマの行方―プルーストの忘却と第六巻の分析・編集考察
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25370378
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
徳田 陽彦 早稲田大学, 政治経済学術院, 教授 (40126602)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | マルセル・プルースト / 物語構造 / アルベルチーヌ / ソドムとゴモラ / 忘却 / 無意志的記憶 / ヴェネチア滞在 / ルネッサンス絵画 |
Outline of Annual Research Achievements |
『失われた時を求めて』の第六巻『消え去ったアルベルチーヌ』は作者プルーストの最終的な手を経ない、死後出版された未完小説である。そのため各編集者は、清書原稿、二つのタイプ原稿、草稿に基づいて編集したが、それら資料も遺族の元に保管されて、編集者にすべてが開示されたわけではない。初版である1925年NRF版は、作者の弟ロベールが主導し、NRFの編集者と協同で編集したが、(のちに判明したが)それはタイプ原稿のコピーを改竄と言わないまでも、物語の一貫性を保持するため、ロベールと編集者によるいくつもの修正の跡がみられる。1954年のプレイヤード版は遺族の意向によって清書原稿しか依拠できる資料がなかった。1986年のジャン・ミイのGF版は件のタイプ原稿と清書原稿を比較して、タイプ原稿はプルースト以外の手による修正があるとして、清書原稿を選択した。1987年のナタリー・モーリヤック(ロベールのひ孫)版は、前年プルースト家の所蔵品からタイプ原稿の写しを発見し出版し、「作者の手による最終版」と称した(筆者は雑誌宛の抜粋であるとの仮説を当時すぐに発表した)。それは話者のアルベルチーヌへの忘却物語をすべて削除した、従来の3分の一の短縮版である。1989年出版のもっとも権威があるとされているプレイヤード版はアンヌ・シェヴァリエのよってなされたが、依拠する資料をおもにロベールが基にしたものがタイプ原稿のコピーであったり、また錯誤がいくつもあったため、N.モーリヤックの激しい批難の対象になった。最後に1992年のジャン・ミイ版はモーリヤック版の正当性を支持したが、実際の出版では次巻の『見出された時』との物語上の一貫性の見地から、清書原稿にモーリヤック版の修正事項を採り入れた煩瑣なものとなっている。以上、各版の編集経緯と内容を検討し、筆者なりの解釈判断を、とりわけ「忘却」の観点からおこなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
問題提起が多岐にわたりすぎていた。この点、反省すべきである。 今回は課題をしぼって、対象を『失われた時を求めて』の第六巻『消え去ったアルベルチーヌ』の死後出版であること、未完であることに集中し、1925年の初版以来、今日刊行中である代表的な編集本をとりあげた。その編集の基本資料をと編集者の方針を検討した。とりわけ、「忘却」のテーマの観点から比較考察したが、まだ研究は途上にある。さらに追究したい。
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Strategy for Future Research Activity |
前項でも述べたが、今回は課題をしぼって、対象を『失われた時を求めて』の第六巻『消え去ったアルベルチーヌ』の死後出版であること、未完であることに集中し、1925年の初版以来、今日刊行中である代表的な編集本をとりあげた。その編集の基本資料をと編集者の方針を検討した。とりわけ、「忘却」のテーマの観点から比較考察したが、まだ研究は途上にある。この後の課題は、二つのタイプ原稿を詳細に検討することである。(清書原稿は、旧プレイヤード版、ジャン・ミイのGF版である程度忠実に再現されている)。 またこの巻の最大のテーマ「忘却」のテーマとその舞台になったヴェネチア滞在章、ルネッサンス絵画との関連も大きな課題である。あわせて考察したい。
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