2014 Fiscal Year Research-status Report
ナボコフのロシア語韻文作品の研究―エミグレ表象とモダニズム詩人としての位置づけ―
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25370382
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Research Institution | Soka University |
Principal Investigator |
寒河江 光徳 創価大学, 文学部, 准教授 (60440228)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ポストコロニアリズム / エミグレ / カルポーヴィチ / ロシア・モダニズム / 翻訳 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はウラジーミル・ナボコフのロシア・モダニズム詩人としての位置づけを検証し、ポスト・コロニアリズムの観点から亡命者(エミグレ)表象を分析する事を目的としている。本研究は詩人ナボコフの韻文作品を主な研究対象としているがそれらの作品はほとんど日本語に翻訳がなされていない。翻訳の芸術的価値はともかくとし詩の翻訳を進める事が第一段階で必要になる。その上、ナボコフの詩を分析する事が必要になるが。いうまでもなく作家ウラジーミル・ナボコフは、英語散文作家として『ロリータ』や『アーダ』の不朽の名作を書き残したことで有名である。その次に『賜物』や『ルージンのディフェンス』等のロシア語散文を書き残した作家としての名声があるのであり、ロシア語モダニスト詩人としての作品の価値はロシアを中心に本国においては単発的になされているが、系統的な研究はほとんどなされていない。また、ロシア文学において欧米文学で主流のポスト・コロニアリズムからの分析がまだまだ発展段階だったこともあり、研究対象及び研究アプローチにおいても新しい試みともいえた。現在、ナボコフの韻文作品の翻訳については進めており、分析も行っているので、研究は順調と言える。ただ、ナボコフ研究において主流の英語で書かれた散文作品、韻文作品とロシア語で書かれた散文、韻文作品との比較研究のアプローチも忘れてはならないもので、最近はそちらの方向に研究が傾倒している。ウラジーミル・ナボコフの英文テクストの分析については、現在京都大学の若島正教授と『アーダ』の翻訳および訳注をつける研究会に所属し、毎月それを行っている。同時に、ロシア語散文作品『密偵』についても翻訳・分析の作業を行っている。研究対象そのものが韻文にとどまらず散文、そして、ロシア語と英語での読解と分析の往復作業を繰り返しているのが現実の状態ではある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在、ナボコフの韻文作品の翻訳については進めており、分析も行っているので、研究は順調と言える。ただ、ナボコフ研究において主流の英語で書かれた散文作品、韻文作品とロシア語で書かれた散文、韻文作品との比較研究のアプローチも忘れてはならないもので、最近はそちらの方向に研究が傾倒している。ウラジーミル・ナボコフの英文テクストの分析については、現在京都大学の若島正教授と『アーダ』の翻訳および訳注をつける研究会に所属し、毎月それを行っている。同時に、ロシア語散文作品『密偵』についても翻訳・分析の作業を行っている。研究対象そのものが韻文にとどまらず散文、そして、ロシア語と英語での読解と分析の往復作業を繰り返しているのが現実の状態ではある。ナボコフの英文テクストとロシア語テクストの比較考察については、小説『ロリータ』英文テクストとロシア語テクストの比較研究、小説『ロリータ』と映画『ロリータ』の比較研究をおこない論文にまとめた。さらにミメーシス性という観点からナボコフの書いたロシア語作品を分析する試みを行っている。そのようなわけで研究対象が少し拡大しているのと、研究アプローチを多様化させることによって、当初の計画とは違った方向に向かっている印象も持たれかねないが、ナボコフ研究総体としての深みに没入しなければ研究そのものが遂行できないのでその点はやむをロシア語韻文作品の研究のみならず、ロシア語テクストと英語テクストの比較考察をさらに進めて生きたいと考える。そのための視点としてポスト・コロニアリズムによる批評に加え、ミメーシス的な観点、あるいは、ド・マンをつかった脱構築的な観点でも論文を発表してきた。現在行っている研究はさらに教育者ナボコフと作家ナボコフの相関性についてである。『ナボコフの文学講義』、『ナボコフのロシア文学講義』における作品分析の視点が創作にどのように反映されているか考察する。
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Strategy for Future Research Activity |
若島正教授との共同で『アーダ』の翻訳と訳注をつける作業は今後も継続していく。さらにこれまで英語からのみ翻訳がなされ、ロシア語から直接的な翻訳がなされてこなかった散文作品についても翻訳と注釈を試みる。分析方法としては、これまで用いてきたポストコロニアリズムに加え、脱構築、ミメーシス、映画と小説の比較研究など、可能な限りさまざまな研究アプローチを応用していきたいと考える。さらに教育者ナボコフと作家ナボコフの相関性についての研究が、ナボコフの作品研究において非常に重要である事が強調されている。『ナボコフの文学講義』、『ナボコフのロシア文学講義』のなかで扱われているさまざまな作品群とそれらに対するナボコフ自身の注釈、および、分析が、自身の作品の中にどのように組み込まれているか。その観点は韻文テクストか散文テクスト、あるいは、英語テクストかロシア語テクストかを問わず、非常に重要であると考えられる。そのなかで一貫して強調されている作品分析の視点は何か。おそらくミメーシスという言葉に要約されるのではないかとも考えられる。ミメーシスはギリシャ語で再現、擬態を表す言葉であり、もともとは言葉を用いない表現形態に使われていた言葉である。ナボコフの作品分析においては、描写性、あるいは、再現性といった観点で、言葉による叙述性ではなく、言葉による再現性に強調が置かれている観点が見受けられる。おそらく、今後の研究においては、その作品が英語であるかロシア語であるか、あるいは、散文か韻文かと言った問題以上に、ナボコフ作品に一貫したポリシーは何なのかを見極める複合的な要素が求められてくるのではないかと考えられる。その意味において、ミメーシス的な観点からナボコフの作品研究を進めていく事は重要なのではないかと考えられる。今後はさらに複合的な観点からナボコフのロシア・モダニズム作家として位置づけを明らかにしていく。
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