2013 Fiscal Year Research-status Report
漢魏六朝文学における「異景」描写の展開――辞賦から志怪書へ――
Project/Area Number |
25370396
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
大野 圭介 富山大学, 人文学部, 教授 (30293278)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 中国文学 / エキゾチシズム / 漢魏六朝 / 志怪小説 / 辞賦 / 仙話 |
Research Abstract |
本年度はこれまでの『楚辞』『山海経』研究や挑戦的萌芽研究「中国古典文学における異文化イメージの形成」(課題番号21652034)の成果を踏まえ、漢賦における「異景」描写の分析を行うための環境整備及び準備作業に着手した。 利用すべき基本文献としての『全漢賦校注』(費振剛、廣東教育出版社、2005)及びキョウ[龍/共]克昌等『全漢賦評注』は既に購入済みであり、さらに「拇指数拠庫」データベースシリーズのうち「歴代賦総集」「漢魏六朝詩文総集」「漢魏六朝志怪」「楚辞注」を新規購入した。これらによって「異景」に関する語彙を抽出し、『山海経』『楚辞』『淮南子』等の先行文献の語彙と照合する準備を整えた。 また予備的研究として「歌う隠士――先秦期における「歌」の一側面――」を発表し、史書や諸子に記録された先秦期の「歌」の分析を通じて、礼教秩序に支配された「士」の世界の周縁にいる「隠者」が歌う「歌」を、「士」が警世として受け取り政治的教訓を引き出そうとしていたことは、『詩経』の詩に民衆の美刺を見出そうとする解釈にも通じる態度であることを明らかにした。『山海経』などに描かれる周縁世界に対する士大夫の意識を解明する一助となるものである。また中国河南省西峡県にて開催された「2013年楚辞国際学術研討会曁中国屈原学会第15届年会」にて、上記論文とほぼ同じテーマを含む口頭発表「論先秦逸民之詩歌与《漁父》」を行い、中国の研究者との学術交流を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究環境の整備は順調に進んでいるが、予備的研究に予想外の時間がかかり、「拇指数拠庫」データベースシリーズ等を用いて漢賦における「異景」描写を分析して研究成果を発表するには至っていないため。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度上半期は前年度に続いて、『全漢賦校注』(費振剛、廣東教育出版社、2005)や「拇指数拠庫」のデータベースシリーズを用いながら、「異景」に関する語彙を抽出し、『山海経』『楚辞』『淮南子』等の先行文献の語彙と照合することによって、漢賦における「異景」描写の分析に努める。この作業を通じて、これまで散発的にしか行われていなかった漢代における「異国」「辺遠」のイメージの本質とその展開について、最新の研究成果を広く収集しながら、より明確かつ総体的に理解することを目指す。 同下半期から平成27年度上半期にかけては、平成26年度上半期までの研究成果を踏まえながら、本研究のもう一つの柱である、伝漢代作の仙話的長編小説から六朝志怪小説に至るまでの「異景」描写がいかに展開してきたかを解明する作業に取りかかる。 東方朔の撰と伝えられる『神異経』『海内十洲記』は、一般には『山海経』の影響が強い空想的地理書と目されているが、前者は『山海経』の叙述形式を踏襲しているのに対し、後者は班固の作と伝えられる『漢武故事』や『漢武帝内伝』のような仙話的長編小説との関連が認められる。巫祝とのかかわりが指摘される『山海経』以後、漢賦に取り込まれて滅びたかに見えた空想的地理知識が、今度は道士の手によって伝えられるようになったのであり、その間には当然大きな質的変化があったと考えられる。こうした空想的地理知識の質的変化の過程を解明するために、上に挙げた仙話的長編小説における「異景」描写の分析を行う。 平成27年度下半期には、研究の最終的な取りまとめに入る。漢賦における「異国」「辺遠」描写の展開、及び伝漢代作長編小説から六朝志怪小説に至る「異景」描写の展開について、研究成果を綜合し、「漢魏六朝文学における「異景」描写の展開」として報告書を取りまとめる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
「拇指数拠庫」データベースシリーズ及び先秦両漢文学関係図書の所要額が当初見込みよりも安くついたため 次年度の所要額と合わせ、漢魏六朝文学関連図書に使用する。
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