2015 Fiscal Year Annual Research Report
漢魏六朝文学における「異景」描写の展開――辞賦から志怪書へ――
Project/Area Number |
25370396
|
Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
大野 圭介 富山大学, 人文学部, 教授 (30293278)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 中国文学 / エキゾチシズム / 漢魏六朝 / 志怪小説 / 辞賦 / 仙話 / 風景描写 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は基本文献としての『全漢賦校注』(費振剛、廣東教育出版社、2005)、キョウ[龍/共]克昌等『全漢賦評注』及び「拇指数拠庫」データベースのうち「歴代賦総集」「漢魏六朝詩文総集」「漢魏六朝志怪」「楚辞注」等を用いて「異景」に関する語彙を抽出し、『山海経』『楚辞』『淮南子』等の先行文献の語彙と照合する作業を行った。この結果次の事実を解明した。 崑崙山や蒼梧山など中国の周縁にあって神々が棲む聖山とされる山の描写は、先秦から漢初の詩歌や史書・諸子においては、その名を挙げるだけで、その情景についての描写はほとんどない。これに対して『山海経』『穆天子伝』のような巫祝の知識がもとになっていると考えられる文献では、崑崙そのものの情景を不死を連想させる風物を中心に装飾豊かな美文で描く。漢初の『楚辞』後期作品でも崑崙への遊行が細やかな描写で描かれるが、司馬相如以後の辞賦では崑崙は単に天子の支配の及ぶ最遠の地を示すアイテムと化す。その一方、『神異経』『海内十洲記』など民間信仰の要素が混じる道教系の文献や、その流れをくむとみられる『拾遺記』『捜神記』等の志怪に、崑崙の詳細な風景描写が現れる。この変化の鍵として挙げられるのは、漢の武帝が黄河源や旧南越国の地にそれぞれ崑崙・蒼梧の名を当てたことに象徴される、想像上の地名の現実化である。この成果は28年度中に口頭及び論文で発表の予定である。 また「第11届詩経国際学術研討会」(26年8月、中国河北省石家荘市)において行った口頭発表「試論《詩経》景物描写的演変」の内容に若干の修正を行い、論文「『詩経』における情景描写の変遷」(28年8月刊行予定)にまとめた。これは『詩経』大雅や周頌において、純粋に先王を祝頌する詩には見えない風景描写が、開国神話をうたった詩に初めて現れ、古代中国における風景描写が物語に付随する形で始まったことを解明したものである。
|