2016 Fiscal Year Research-status Report
戒厳令解除と1990年代台湾文化の再編制―『島嶼邉縁』とその時代
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25370399
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
三木 直大 広島大学, 総合科学研究科, 教授 (10190612)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 台湾文化 / 1990年代 / 島嶼辺縁 / ジェンダー / ナショナルアイデンティティ / 性的少数者 / LGBT |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は雑誌『島嶼邊縁』(1991~1995)を中心に、1990年代台湾文化再編成の動向について総合的に研究を行うものである。本年度は垂水千恵氏(横浜国大)山口守氏(日本大学)、三須祐介氏(立命館大)を連携研究者として研究を進めた。本年度の実績はおおよそ以下の3点に整理できる。 (1)日本台湾学会第18回学術大会(宇都宮大、2016.5.21)での分科会企画「1990 年代台湾文化を再考する」(企画責任・座長は三木)において、三木は「1990 年代台湾文化再編成における雑誌『島嶼邊縁』の位置」と題した発表を行うとともに、台湾から研究協力者として招聘した本誌執筆メンバーの洪凌氏(世新大学)の発表「雑誌『島嶼邊縁』が目指したもの―ジェンダー・マイノリティ・ネイションをめぐって」を手掛かりに、垂水氏と山口氏をコメンテーターとしてナショナルアイデンティとジェンダーをめぐる問題群について議論した。 (2)台湾から陳芳明氏(政治大学)と紀大偉氏(政治大学)、国内から四方田犬彦氏(比較文学者、前明治学院大学)を研究協力者とし、国際シンポジウム「前衛としての台湾文学:1990 年代文化論再考」を開催した(CIC東京、10月22日)。ここでは三木が(1)における発表をさらに発展させた報告を行い、それについて紀大偉氏が当事者として議論に加わるほか、「もはや周縁ではない?―紀大偉に聞く台湾LGBT文学」(司会は垂水氏)と題したセッションなどで、三須氏や劉霊均氏(神戸大学大学院生)らとともに『島嶼邊縁』誌上におけるジェンダーと性的少数者をめぐる問題群を議論した。また台湾におけるナショナルアイデンティティと文化の問題について、山口氏司会で『台湾新文学史』の著者である陳芳明氏と四方田氏を中心に議論した。 (3)上記における議論を踏まえ三木は論文を発表したほか、台湾での研究交流と資料調査を継続している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は日本台湾学会第18回学術大会における分科会企画によって、雑誌『島嶼邊縁』刊行・執筆の当事者たちとともに本雑誌上のジェンダー・性少数者(LGBT)・ナショナルアイデンティティをめぐる議論の概要を点検・整理できた。また本科研費によって開催した国際シンポジウムでは、台湾学会分科会における議論をさらに発展させることができ、これらの議論や資料調査をふまえて、三木はこれまでの研究成果を論文「雑誌『島嶼邊縁』と一九九〇年代前半期台湾の文化論」(水羽信男編『アジアから考える:日本人がアジアの世紀を生きるために』、有志社、63~84頁、2017)にまとめている。さらに、台湾1990年代の文化状況及びその文化史的叙述の問題について、『台湾新文学史』の著者である陳芳明氏と比較文学者・映画史家の四方田犬彦氏らとともに、多角的に議論することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
国際シンポジウムや学会での議論、現地でのインタビューや調査などを手掛かりとしながら雑誌『島嶼邊縁』の論説の分析を進める中で、当初は課題として想定していなかった問題、とりわけメンバー間の2000年代以降の活動の違いに展開していく思想的な相違が何故生じたのかを検討する必要性が浮かびあがってきた。そのため継続して当事者たちへの聞き取り調査を行うほか、『當代』『婦女新知』『電影欣賞』など執筆者メンバーが同時期に編集や執筆に関わった雑誌や、同じく前後する時期に参画した他のグループ等の調査を行うことを最終年度の研究の主な方策とする。これらは本科研課題による研究のまとめでもあり、あわせて次の研究へのステップともなるものと位置付けている。
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Causes of Carryover |
国際シンポジウムや学会での議論、当事者への聞き取り調査などを材料としながら雑誌『島嶼邊縁』の研究を進める中で、当初は中心課題として大きく想定していなかった問題、とりわけメンバー間の2000年代以降の活動の違いに展開していく思想的な相違が何故生じたのかを検討する必要性が浮かびあがってきたため。これは新たな研究課題として「2000年代の台湾文化の多重性」というテーマを設定するべきものでもあるが、本課題と密接に関連するものであり、継続して現代台湾における文化運動を研究するための手がかりをつかんでおきたい。そのための経費として、本年度助成金の一部を次年度に繰り越している。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記の理由による台湾での聞き取り調査や資料調査を継続するのための海外旅費、2017年度日本台湾学会学術大会での課題に関連したテーマを議論する分科会などへの参加及び連携研究者との研究交流のための国内旅費にあてる予定である。
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