2013 Fiscal Year Research-status Report
カトマンドゥ盆地に保存されるベンガル語・ミティラー語演劇写本
Project/Area Number |
25370412
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
北田 信 大阪大学, 言語文化研究科(研究院), 准教授 (60508513)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 国際情報交換 ネパール / ネワール / ミティラー語 / 音楽・舞踊・演劇 / 写本 / 新期インド・アーリア語 / 民族音楽 / 口承文芸 |
Research Abstract |
【北田】 8月にカトマンドゥ盆地を訪れ、ネパール・リサーチ・センターにおいて、カーシーナート・タモート博士と、中期ベンガル語の最初の作品、チャンディーダース著『クリシュナ賛歌』の新たに見つかった写本断片について、意見交換をした。ムスンバハー僧院において、ネワール族の典礼音楽(ラーガ・マラシュリー、ラーガ・グルジャリー)に関する聞き取りを行い、さらに、ネワール歴グンラー月の仏教徒の催しとして、サンスクリットの仏教経典を実際に信者たちが朗誦する様子を調査した。これに関し、スワヤンブーナート仏塔では、ネワール語による讃歌(バジャン)が盛大に歌われる様子を観察した。また、先祖を迎えて、演劇、滑稽劇、音楽・舞踊などでもてなす、日本のお盆に似た祭りガイ・ジャットラ(牛の行進)において、ネワール族の芸能に関する調査を行った。2月の調査では、タモート博士と新期インド・アーリア語東部方言の初期形による演劇写本『四幕よりなるラーマ劇』を解読した。さらにミティラー語の権威Ramawatar Yadav博士に会い、ミティラー語写本に関する意見交換を行った。ムスンバハー寺にて典礼音楽(ラーガ・トラーヴァリ、ヒンドール、カーモード)を録音した。 【ジョシ】 3月にカトマンドゥ盆地のネワール族の住む都市・集落(パタン、バクタプル、パナウティ、サンクー)において、ダファー音楽の聞き取り調査を行った。パナウティやサンク―は古い時代から栄えた町であるが、ダファー音楽の伝統は、伝承者の高齢化・死去などで風前のともしびであることを確認した。また、パタンの王宮前広場で毎年11月頃に催される舞踊劇カールティック・ナーチの台詞にはミティラー語の歌詞が混じっていることが判明した。 【まとめ】新期インド・アーリア語史の研究にとって、カトマンドゥは新発見の宝庫であるということが、平成25年度の調査でも確認された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
さまざまな理由により、ネパールに滞在できる日数が大幅に減ったため、タモート博士と共同で行っている写本解読の分量が、計画よりは少なかった。しかしながら、2月に解読した『四幕よりなるラーマ劇』は、今から約400年前に著された作品であるが、アパブランシャ語から新期インド・アーリア語に移行する時代の重要な言語資料であり、さらに、スワヤンブーナート仏塔やチャング・ナラヤン寺院など今日も残る歴史的建造物に関する出来事が言及されており、歴史資料としても貴重であることが判明した。つまり、分量は減ったが、発見の意義はそれを補うに足るほど大きい、といえる。
|
Strategy for Future Research Activity |
計画通り、演劇写本の解読と、カトマンドゥ盆地におけるネワール族の伝統芸能を続行する。 平成25年度の調査により、仮面舞踊劇カールティック・ナーチの歌詞の中にミティラー語の詩句が多く含まれていることが判明した。カトマンドゥ盆地パタン市で毎年9月に上演されるこの劇を演じるのは、普段はパタン市内のあちこちでダファー音楽を演奏している市民たちであり、ダファー音楽との関連を明らかにする必要がある。 また、金剛乗仏教の典礼音楽チャチャーと平民の宗教賛歌ダファーは、形式的には酷似しており、両者を比較することにより、ネワール族の伝統音楽の特徴を明らかにすることができよう。従来の民族音楽学的研究では、ネワール音楽はインド古典音楽の亜流として過小評価されてきたが、実は、ネワール音楽はインド古典音楽とは異なる、独自の音楽的原理の上に成り立っている自立的な音楽文化なのではないか、という可能性が見えてきた。これを究明することが今後の課題である。
|
Research Products
(5 results)