2013 Fiscal Year Research-status Report
世界文学に見られる離散をめぐる、エクリチュールのあり方の統合的研究
Project/Area Number |
25370417
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
越川 芳明 明治大学, 文学部, 教授 (40143953)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
合田 正人 明治大学, 文学部, 教授 (60170445)
土屋 勝彦 名古屋市立大学, 人文社会系研究科, 教授 (90135278)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 離散(ディアスポラ) / クレオール / ポストコロニアル |
Research Abstract |
初年度は、代表者と分担者がそれぞれ、調査の対象としている国の研究機関へ行き、資料収集を行なった。代表者の越川は、8月から9月にかけてキューバのハバナとサンティアゴでアフロ信仰の調査を行ない、アフリカ人の離散にまつわる資料を収集した。とりわけ、ハバナでは、サンテリアの秘儀であるイファ占いの修行の形態を調査することによって、これまでの研究書には書かれていない知見を数多く得た。10月には、シカゴのピルセン地区のチカーノミュージアムで、チカーノの離散の資料を収集した。 分担者の合田は、8月にパリのフランス国立図書館にて、ジャン・ポーランのマダガスカル滞在、哲学者ジャン・ヴァールとマルチニックの詩人・思想家エドゥアール・グリッサンの関係について調査し、ユダヤ系の離散に関する資料を収集した。 分担者の土屋は、9月に3週間ウィーンに滞在し、越境作家たちと意見交換し、さらにウィーン大学図書館、国立図書館および文学館にて、ドイツ語圏文学の離散をめぐる資料を収集した。11月2日、6名のドイツ語圏越境作家を招待して国際シンポジウム「文学における間文化性」を行い、アイデンティティ、異邦性、他者性、規範言語と逸脱など、ドイツ語圏文学の離散をめぐる根源的な諸問題について知見を深めた。報告集「文学における間文化性―地域的、国民的、大陸的アイデンティティの諸相」を刊行した。 今後は、各言語で行なっている「離散」をめぐるエクリチュールのあり方の類似性、相違点などを洗い直し、研究者相互間の共通理解を深めることが重要である。そのためにも、全員が揃って発表を行なう必要があるので、12月に、三人が参加する国際シンポジウムをひらくことにする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度の計画として、以下の6つの項目を掲げた。すなわち、(1)基礎的な文献の収集:日本内外の図書館・公文書館・その他研究機関の資料室で、離散をめぐる基本文献を収集する。(2)資料分析:文献資料については、特に現代の離散に関して、各地域の歴史的・文化的位相とに関連したエクリチュールに焦点を絞り、読み込む。特に、現代文学の離散の自己表出をめぐり、歴史的・文化的な背景から共通点・相違点などを類型化し、各言語圏の作家・思想家にまたがる一定様式(普遍性)を理解する。(3)専門家との討議―ポストコロニアル時代の離散の文学は、移民・難民をめぐるダイナミックな変貌を機敏に察知する必要があるため、本研究が対象としている各地域のすでに交流のある研究者から最新の現地情報を収集する必要がある。派遣地の専門家との討議の後は、現地の学術誌から得られる知見とともに、最新の学術的な動向を把握し、日本の学術界の動向と比較し検討する。(4)成果発表:各研究者が随時報告を行う。対象領域が多岐に渡るため、研究合宿形式の報告会を開催する。その際、外部から講師を招聘し、他地域の「離散」をめぐる知見を得る。(5)記録保存:報告会の内容はすべてパソコン使ってデータベース化して研究者間で共有する。以上の計画のうち、(1)~(3)までは順調に進んでいるが、(4)と(5)に関しては、遅れがちである。(4)は、責任者が適宜分担者と話しあいやメールによって、情報のやり取りをしているが、全員でまとまった合宿形式の報告会はできなかった。また、(5)に関しても、データベース化は進んでいない。したがって、これらは、平成26年度の最優先課題としたい。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度の目標は、平成25年度の文献調査で得られた知見をもとに、各研究者が現地調査(作家・思想家とのインタビュー、フィールド調査)を行なう。具体的にはーー(1)現地調査①作家・思想家とのインタビュー―実際に活発に執筆出版活動を行っている作家や思想家、ドイツ在住の離散のトルコ人作家らと面談し、疎外と同化の狭間で揺れ動く複数文化のアイデンティティ形成をめぐって聞き取り調査する。作家・詩人と直接対話することにより、作品の解釈にとどまらず、離散のエクリチュールに特化した社会状況や作家個人の体験を聞き取り調査することが大切である。②フィールド調査―現地の研究者との討議や作家との聞き取り調査のあとに、実際に現地に赴き、作品の背景となっている地区(ベルリンのクロイツベルク、ロサンジェルスのイースト・ロサンジェルス、ハバナのマリアナオを含む)での離散の民の営みを研究者自身が調査確認する。具体的には、派遣地域の離散に関連した文化施設・イベントへの出席・コミュニティー行事に参加して、写真撮影・ビデオ撮影を行なう。その他、補足的な資料として、書籍・AV資料を購入したり、さらに情報収集の発展的な手段として、実際の離散のコミュニティーでの人脈を構築する。(2)分析 ①作家とのインタビューに関しては、テープ起こしを行い、文字資料として記録に残す。肉声・映像もビデオカメラやボイスレコーダーを使って、デジタルデータとして保存する。資料分析にあたり、文字資料だけでなく、映像資料も同時に用い、入念に分析する。 ②フィールド調査から得られた情報に関しては、学術的な知見を踏まえ、研究者の独自の視点から分析する。(3)報告会 12月に、国際シンポジウムを開催予定。責任者越川、ならびに分担者土屋と合田が講師として発表する。その他に、ゲスト講師として、数名の外国人研究者を招聘する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
責任者と分担者の三人が一カ所に集まって、合宿形式の知見の擦り合わせを行う予定であったが、メール、電話、二者間による話し合いですませたために、場所を借りるために用意していた資金が翌年度への繰り越しとなった。 今年度は、全員参加の研究会ないしは、シンポジウムを開催して、知見の交換、意見の擦り合わせを行なうことを優先課題とする。 平成26年度に行う予定の、合宿形式の知見の擦り合わせの場所代、宿泊代として使用する。
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