2014 Fiscal Year Research-status Report
平板型アクセント動詞否定形の非平板化に関する基礎的研究
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25370424
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
御園生 保子 東京農工大学, 国際センター, 教授 (00209777)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 平板型動詞否定形 / 非平板化 / 東京23区成育 / 東京3代目 / 伝統的アクセントの保持 / 伝統的アクセントの変化 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度の調査により東京アクセント保持には親の本人ばかりでなく親の成育地も関係あるとみられるところから、26年度は本人が東京23区成育で、少なくとも一方の親も23区内成育の話者を選び調査し、1945年から1995年に生まれた11名の話者の協力を得ることができた。年齢的には60代4名、50代1名、40代2名、30代なし、20代3名、10代1名(年齢は調査時)の計11名であり、前年度より若い。東京3代目以上の話者である。平板型での実現が期待される14の形式について回答を見ると、極端に平板型の回答が少ない話者はいなかった。「着ない」を例にとれば、11名の回答は平板型が8個から13個の中に納まる。東京3代目は、おしなべて伝統的東京アクセントをある程度保持しているといえる。しかし、2013年度調査で伝統的東京アクセントを保持している人だけを見れば、1935年より以前に生まれた人のほうが、2014年度に調査したそれより10歳以上若い人より伝統的東京アクセントを保持していると見ることができる。2013年度調査では、調査した平板型動詞4語すべてで14形式全部平板型の話者が複数いたが、2014年度調査では14形式すべて平板型だったのは1語で回答者は一人であった。他の語では13形式が最高であった。 年齢による違いは接続助詞「と」が後接するとき(「もう行かないと。」「今行かないと、行けないよ。」等)にイカナ↓イトという回答が多いといったところに現れる。そのほかに、前年度80歳以上に人に見られた、動詞+助動詞のまとまりの後部要素にアクセントの下がり目と置く「行かないだろ↓う」「行かないと言った↓ら」という言い方が戦後生まれには見られなくなっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
東京方言話者として1年目は旧東京15区成育という条件で主として80歳以上の方を対象に動詞否定形の様々な形式(派生形、+終助詞、+接続助詞等)について調査し、その結果、動詞否定形が平板型で実現するのは質問した約30の形式の中で14の形式であることを明らかにした。また、文末と、副文末、連体修飾句といった構文の位置で平板型の確率が異なることを明らかにした。このとき、東京2代目と3代目では、伝統的アクセントの習得に違いが見られることがわかった。25年度は東京3代目以上の、若い世代を対象に同様の調査を行い、親も東京出身である人のほうが平均して伝統的アクセントを保持していることと、80歳以上の伝統的アクセント保持者に比べれば非平板化している項目があることが新たにわかった。 従来「平板型アクセント動詞否定形は平板型」と言われていたのは、実は否定形言い切りに限っていたことのようであり、その意味では種々の形式について調査したこと自体が新しいと言ってもいいようである。また、アクセント研究者によれば、東京方言話者を見つけること自体がかなり難しい。その状況の中ではかなりの協力者を得ていると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
27年度は、今までの調査で少なかった下町出身の話者を中心に調査する予定で、府立第一高等女学校(現白鴎高校)同窓会の協力を得て調査中である。 また、昨年度調査できなかった30代の話者についても調査したいと考えている。高年齢層の方は比較的時間に余裕があるため、協力してくださるが、30代、40代の方にはなかなかお会いできていない。これは課題でる。 従来言われていた「平板型アクセント動詞の否定形は平板型」という記述は、主として否定形言い切りの形に限っていったことのようである。が、実態は、構文内の位置、話者の発話意図の表現等々によって、さまざまな実現形を取りうる。たとえば、文末言い切り(行かない。)では終助詞が着いた形(行かないね。)より、起伏型(イカナ↓イ)の回答が多い。ナイが二重母音で重音節のため、アクセントの下がり目が前に移ったと考えられる。このような一般的な現象は昔も今も変わらないはずで、理想的な東京アクセント保持者がいたとして、その人が文末言い切りで絶対下がらないとは言えないのではないか。何をもって動詞否定形が非平板化している証拠とすることができるのかを熟慮しなければならない。 高年齢層に見られた「行かないと言った↓ら」のような言い方が若い人ではあまり見られない。「行かない↓と言ったら」「行かな↓いと言ったら」が多くなる。「平板型動詞+たい」否定形でも、高年齢層に多い「行きたくな↓い」が若い人では「行きた↓くな↓い」と前の要素から下がる人が多い。東京方言話者が多く住んでいた地域を旧東京15区すると、戦災、ドーナツ化、地上げ等々の理由で、そこに住んでいた人で拡散したと考えていい。今残る東京方言を記録することと、若い人の動向を調べ、アクセント変化の方向を探ることを課題にしている。
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Causes of Carryover |
国際学会で発表する予定であったが、テーマがかなり特殊であるため、発表場所として適切な学会を2014年度に見つけることができず、参加しなかったため、その旅費が未使用となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
8月にブラジルで開催される「国際語としての日本語」シンポジウムへの参加を計画している。 また、調査協力者の調査への興味が深いため、調査結果をパンフレットととして印刷し配布することを考えている。
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