2014 Fiscal Year Research-status Report
言語における類像性の構造と役割:音象徴・オノマトペ・詩的言語を中心に
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25370425
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
篠原 和子 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (00313304)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
平賀 正子 立教大学, 異文化コミュニケーション研究科, 教授 (90199050)
秋田 喜美 大阪大学, 言語文化研究科(研究院), 講師 (20624208)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 論文集出版 / 国際会議発表 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度は、前年度に行った国際類像性シンポジウムでの主な発表者による論文を査読つきで精選・編集し、論文集としてオランダのジョン・ベンジャミンズ出版社から3月に刊行した。欧米中心に研究がされてきた類像性研究が日本をはじめとする東洋の研究者を交えて拡大しうる方向性を明確に提示したもので、意義深い成果である。 また、初年度に行った研究項目の3本の柱(音象徴、オノマトペ、詩的言語)のそれぞれの項目を、研究代表者、研究分担者2名のそれぞれが研究協力者とともに進展させた。 音象徴については代表者(篠原)と研究協力者(川原)が扱った。音象徴が、いわゆる感覚モダリティー間での共感覚的連想をもつだけでなく、「感情」「人柄」といったより抽象的なイメージにまで広がっていることを実験的に明らかにし、国際学会での研究発表を行った。 オノマトペと文法を担当する秋田は、多様な話し言葉コーパスを用いて、日本語オノマトペの形式的・意味的分布の観察を中心に行った。具体的には、副詞的・動詞的・名詞的なオノマトペが、どういった文タイプ(肯定平叙文、疑問文、否定文、命令文)を選好するか、イントネーションやジェスチャーとの同期の仕方はどうか、などを分析した。さらに、日米のアニメーションを用いることで、日英語のオノマトペの言語的な特徴が、非言語的な効果音の分布をどの程度左右しているかを探った。 平賀は、詩的言語の構造分析をさらに精緻化すると同時に解釈論としての深化を進めるために認知詩学の方法を導入し、詩的言語研究への新局面を切り拓いた。特に、芭蕉の俳句テクストおよび柿本人麻呂の長歌・反歌を具体的データとし、認知意味論で展開されている概念統合理論に基づいて、類像的関係性が個別テクスト内のみならず複数のテクスト間においても出現することを示し、記号的構造が導く解釈間の関係性構築プロセスについての論考を深めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2年目に当たる平成26年度は、計画に基づき、初年度の研究実績をさらに発展させて、類像性に関する知見の蓄積と分析の深化を目指した。研究計画には、以下の3項目が含まれる。(1)音象徴における類像性:音声・音韻を場として現れる類像性として、音象徴の身体的動機づけについて研究を発展させ、音象徴がどのような語彙のどのような範囲範囲にまで及ぶのかを明らかにする。(2)複数の言語のオノマトペ構造の分析を発展させ、類像性が及ぶ言語の範囲を、語彙・形態・統語など文法的側面から明らかにする。(3)詩歌などの文学・芸術作品の表現にみられる類像性を分析し、言語の機能・役割と類像性の関連性について考察することで、人間の言語活動を類像性の観点から広範囲に捉える。 以上の3項目について、(1)については研究代表者が担当し、音象徴現象が「感情」「人柄」などのイメージにも関与すること、その動機づけは音声学的、身体的に説明しうることを示した。(2)については秋田が、多様な話し言葉コーパスでの表現分布、ジェスチャーとの同期、さらにはアニメーションなども用いて方法論の拡大を行った。(3)については、平賀が詩的言語の類像性の分析理論を拡張し、資料のジャンルも拡大して発展させた。以上のように順調に成果を蓄積している。 また、初年度に行った国際類像性学会の成果をもとに、主立った発表者による論文集を編集、出版した。これはオランダのジョン・ベンジャミンズ出版社から学術書として出版したもので、言語学研究者のあいだでは定評を得ている大きな出版社からの専門書である。 以上の成果は、3年目に計画している言語における恣意性と非恣意性の及ぶ範囲についての理論的検討に向けて、基礎となる成果であったと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
3年目は、これまで2年間に行って来た3つの項目について、代表者と分担者らでさらに研究を進めるとともに、全体をとりまとめることがメインである。言語にみられる類像性を非恣意性として捉えたうえで、これが言語のどのような側面に、どの程度深く、また通言語的に現れるのか、その動機づけは何かなど、総合的な考察を加える。それにより、ソシュールの恣意性の概念と類像性の関係性、言語記号における類像性の位置づけを、理論的に論考することを目指す。各項目の研究も合わせてその成果を広く公表する。 理論的考察は、代表者・分担者2名を中心とし、必要に応じ協力者を交えて、全員で検討する。そのための研究会を複数回開き、理論的整理を行うにあたっての課題や問題点を抽出しつつ、枠組みを作って行く計画である。可能であれば、全体の成果を国内ワークショップの形で公表し、言語学および近隣分野への貢献とするとともに、広く議論をつのることも視野に入れる。
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Causes of Carryover |
代表者の平成26年度における海外旅費および学会参加費の一部を、大学運営費で支出したため、未使用額が生じた。 分担者(秋田)は、予定していた謝金が不要になり支出が発生しなかったことと、旅費を大学運営費で支出したため、未使用額が発生した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
代表者は平成27年度に国際学会参加が決まっているので、その旅費の一部として繰り越し分を支出する。分担者も同様に、参加が決まっている国際学会の旅費として支出する。
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Research Products
(18 results)