2013 Fiscal Year Research-status Report
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25370436
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
原田 なをみ 首都大学東京, 人文科学研究科(研究院), 准教授 (10374109)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 言語学 / 日本手話 / 意味論 / 統語論 / 語彙アスペクト / 否定表現 |
Research Abstract |
[背景]音声言語の存在文では所有の動詞を用いるものと、コピュラ動詞と前/後置詞を用いた、場所を表す構文と同じ形で表すものの、大きく分けて二種類が存在することが知られている(Freeze 1992)。さらに一部の言語では、存在文の主題となっている名詞句と述語との間にある特性において一致現象が見られる(例:日本語(有生性の一致):そこにネコが{○いる/×ある}、机の上に本が{×いる/○ある})。発話のモダリティが異なる手話言語においては、複数の手話において、所有型あるいはコピュラ型の存在文が見られることが報告されている(Pichler et al. 2008)。一方日本手話においては、どのような形式の存在文がみられるのか、体系だった研究がこれまでなかった。 [観察]予備調査では、先行文献で考察されている手話言語とは異なり日本手話には「いる」と「ある」の交替が存在することが明らかになった。一方「水族館 魚 {いる/ある}」という表現が可能であることが示すように、両者の分布自体は(音声言語の)日本語とは異なっている。 [調査と分析]予備調査を元に、存在する名詞句(日本語のNP-ガに相当)が[+有性]である表現を約20文準備し、2名の日本手話母国語話者(40代男性と60代女性)にインタビューを行った。その結果「日本手話で述語の交替は、その文が主題の名詞句の一般的な特性を表しているかによって規定される」ということが明らかになった。 [考察]日本語手話母語話者によると「水族館に魚がいる」は、水族館に魚がいるのは当たり前なので、状況の指定がないと容認度が下がる。この母国語話者の直観と、上述の調査および分析の結果に基づき、日本手話の「いる」「ある」の交替には、その文が主語の名詞の恒常的な属性を表しているか、それとも一時的な状態であるかの違い(Carlson 1977)を表しているか、という、述語の意味的な属性が関わっていることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では日本手話の述語の語彙アスペクト(相:述語によって表される事象の進行の度合い) について、基礎データの収集および分析を行い、以下の3点を明らかにする。 (1)手話言語という非音声様式を用いる言語でアスペクトはどのように具現するのか。 (2)述語のアスペクトと関連のある否定表現は、日本手話においてどのように具現するのか。(3)音声言語と手話言語の間に見られる語彙アスペクトにおける相違点や類似点は、それぞれの母国語話者の文法知識のどういう要因に依拠するのか。 この3点を明らかにすることにより、従来の日本手話研究では見られなかった音声言語との比較 を考慮にいれた述語のアスペクト分析を行い、手話の統語的研究を進めて行く上での基盤を作る。 平成25年度は、述語のアスペクトに関して既存のデータに加えて補足のデータを収集する予定であった。具体的には、四種の述語アスペクト(活動・到達・達成・状態)のうち、 最もデータの収録が遅れていた状態述語について、追加のデータ収録を行い、分析および理論的提案を成し遂げたという点で、研究はおおむね順調に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
交付申請時には、平成26年度以降の研究目的として、以下の3点を挙げている。 (1)到達述語:到達動詞に関しては、ここまで収録と分析が完了しているのは「死ぬ」の1動詞のみの収録なので、「結婚する」など他の述語も追加してデータを収録し、蓄積データを補完する。(2)存在文:状態述語 の下位範疇である「いる」「ある」を、主語の有生性の条件を複数準備してデータ収録を行い、音声言語との違いの有無を調べる。(3)否定辞のデータ:中国語では、述語の否定辞に「不」と「没有」の二種類があり述語のアスペクトに応じて使い分けられる(Li and Thompson 1981)。日本手話でも複数の種類の否定表現があり、例えば意志・所有存在・完了・可能・その他の述語に応じた記述的な観察がなされているが、体系立った説明はなされていない。Vendler (1967)のアスペクト分類、および平成25年度の成果をふまえて、述語のアスペクトと日本手話の否定表現の相関を分析する。 このうち(2)に関しては平成25年度に完了したので、残りの二点について、平成25年度に確立したデータ収録のシステムを活用してデータの収録と分析を進めていく。 その際、手話通訳担当、および自身が日本手話と日本語のバイリンガル話者でもある研究協力者の高山智恵子氏の協力が欠かせないが、現在研究拠点(首都大学東京)から離れた地点(熊本県水俣市)に在住しているので、遠距離で研究に関する打ち合わせをし、収録日など特定の日に必ず研究拠点に出向くよう調整をしていくことが、研究を遂行する上での課題である。
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Research Products
(4 results)