2014 Fiscal Year Research-status Report
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25370436
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
原田 なをみ 首都大学東京, 人文科学研究科(研究院), 准教授 (10374109)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 言語学 / 日本手話 / 意味論 / 統語論 / 否定表現 / 語彙アスペクト |
Outline of Annual Research Achievements |
[背景]従来の手話言語の類型的研究では、主に非手指表現と手指表現の関連に着目して否定表現の研究が進められてきた。 [観察]日本手話の否定を表す主要表現の中でも文法的要素なのかが確定していない「違う」に焦点をあてた。おそらく音声言語の機能範疇に相当する非手指表現と異なり、日本手話の語彙表現としての否定語は使用例も多数存在し、定義づけも一定でない。「違う」に関しては、例えば「メタ言語的否定を表す否定語」というように、談話的な否定表現と捉えられてきたが、その概念自体、既存の文法理論においてどのような意味を成すのか明確ではない。日本手話の「違う」が”メタ言語的否定”なのか、それとも統語における否定辞としての性質を持つのかどうか、日本手話の「違う」および否定に関する表現の基本的な性質を統語論および意味論の観点から考察した。 [調査と分析]手話言語の否定表現の表出の調査は、インタビュー形式で実施すると手話話者が調査者の意図に反して、問いに単なる首ふり(否定のジェスチャー)で回答する可能性が高い。それを可能な限り回避するため、本調査では日本手話の母語知識提供者(以下「協力者」と記述)に物語を語ってもらった。質問者と手話通訳者が組になり、『桃太郎』など有名な昔話の絵本を10冊程度準備し、協力者に一冊ずつ渡して読んでもらい、その内容を手話で表出してもらった。各セッションは約1時間で協力者の承諾の元ビデオカメラに収録した(本収録2件、40代男性1名、70代女性1名)。収録した映像データの中から否定にまつわる表現を中心に書き起こし、意味解釈をCODA話者に確認した。 [考察]本調査において、日本手話の「違う」は通常自然言語に見られる否定辞のように、直前の要素(少なくとも名詞・命題)を否定するということが明らかになった。また、文中に手形で表されない要素の否定も担うことが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では日本手話の述語の語彙アスペクト(述語の表す事象の進行の度合い)について、基礎データの収集および分析を行い、以下の3点を明らかにすることを目標としている。 (1)手話言語という非音声様式を用いる言語でアスペクトはどのように具現するのか (2)述語のアスペクトと関連のある否定表現は、日本手話においてどのように具現するのか (3)音声言語と手話言語の間に見られる語彙アスペクトにおける相違点や類似点は、それぞれの母国語話者の文法知識のどういう要因に依拠するのか 前年度までに、日本手話における四種の述語のアスペクト(活動・到達・達成・状態)の基本データの収集(上記(1))が済んでいる。平成26年度は、日本手話固有の否定表現である「違う」に焦点を当ててデータを収集し、分析を行った(上記(2))という点で、研究はおおむね順調に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
交付申請時には、平成27年度以降の研究目的として、以下の3点を挙げている。 (1)日本手話の述語のアスペクトの基本的特性:統語及び語彙的意味から分析する。その際 Vendlerの四分類 や、Levin 1993の述語の語彙的意味素性をふまえ、例えば日本手話の達成動詞「落ちる」の特異性について、どういった語彙的意味素性に由来するのか(移動か状態変化か)について明らかにする。 (2)日本手話の状態述語:特に「いる」/「ある」の交替と文主語の有生性を中心に調べる。 (3)日本手話の否定表現:各アスペクト群においてどのように表現されるかを解明する。 主に過去2年度で収録したデータを再分析し、上記三点についてより深い分析を実施していく予定だが、その上で新たなデータ収録が必要になった場合は日本手話母語話者を対象に、日本手話の追加データの収録を実施する。その作業を通して、従来は記述的な観察が存在するにとどまっていた日本手話のアスペクト表現について、言語理論を踏まえた上での総括的な理論を提案し、とりわけ音声言語(主に日本語)と手話言語(日本手話)との比較対象を詳細に行い、手話言語の理論的研究に貢献する(前項(3))。最終年度なのでワークショップおよび研究成果報告書を作成して、研究の成果を発表する。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は以下の3点である。 まず、物品費として平成26年度分の助成金の交付申請時には、新規に研究協力者用の大型モニターおよびデータ保存用の外付HDD購入のために135,000円物品費を計上していたが、研究協力者が他の研究事業に関与し、同様のモニターをその研究事業経由で入手したため、平成26年度での大型モニターの購入は不要になった。二点目に、出張旅費として600,000円計上していたが、第四四半期の研究協力者の日程調整が困難だったため、国内出張の回数が当初の予定より減少した。それに伴い、国内旅費が当初の予定より減少になった。三点目に、投稿料の必要な雑誌への投稿費や資料の複写代、出版物印刷代などとしてその他の費目で50,000円計上していたが、平成26年度には当該費目の支出が生じなかったため、その他の費目の支出金額が交付申請時より少なくなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度は、以下の要領で予算執行を計画している。 (1) 外国旅費 1回(研究代表者分)(2) 国内旅費 2回(研究代表者分)+3回(研究協力者分)(3) 研究協力者への謝金・専門知識の提供 (4) 物品費・大型液晶モニター(研究代表者研究室用)・外付HDD(データ保守用)・インクトナー(5) その他 資料複写・資料郵送・出版印刷
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Research Products
(3 results)