2014 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
25370437
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
酒井 智宏 早稲田大学, 文学学術院, 准教授 (00396839)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 意味論と語用論のインターフェイス / 文脈主義 / 随意性基準 / 固有名 / 単文のパズル / 単称命題 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の主な実績は以下の二点である。
第一に、文脈主義の理論において語用論的調整(真理条件に影響し、かつ文法によって制御されていないような意味の調整過程)の存在のテストとされる随意性基準が誤謬に基づいており、実際には語用論的調整の存在を示せていないことを示した。随意性基準は「ある要素の補充が随意的であること(= 補充しなくても真理条件的内容が得られること)⇔その要素の補充は語用論的調整による」というものである。しかしながら、そこに現れる「随意的」の定義が明確でないため、文脈主義が語用論的調整とみなす現象のすべてを「飽和(真理条件に影響し、かつ文法によって制御されている意味の調整過程)」として再定式化することができる。実のところ、語用論的調整とは、言語表現のさまざまな用例のうち、言語学者が「字義どおりの意味」とみなす用法と、それ以外の用法とを関係に対して貼られたラベルにすぎず、意味論と語用論を接続することに失敗している。
第二に、固有名に関する「単文のパズル」と呼ばれるパズルの解決案を提示した。単文のパズルとは、たとえば次の(1)と(2)が真であると感じられるにもかかわらず、(3)が偽であると感じられるというものである。(1) スーパーマンはクラーク・ケントより人気がある。(2) スーパーマン = クラーク・ケント(3) スーパーマンはスーパーマンより人気がある。このパズルは、A. 固有名は個体のアスペクト(局面)への指示を一義的に行うことができる。B. (2)のような同一性言明「X = Y」は「単称命題(個体に関する命題)において、XとYは置換可能である」という文法的注釈である、と考えることにより解決される。(1)が個体のアスペクトに関する命題であるのに対して、(2)は個体に関する命題であるから、(3)のような置き換えはできない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2014年9月のオーストラリア滞在中、グリフィス大学にて文脈主義に関する講演を、クイーンズランド大学にて固有名に関する講演を行い、本研究が依拠する枠組みと具体的な言語現象の双方について研究を進展させることができた。12月には本研究とは立場の異なる研究者2名を含む3名の研究者を招聘してシンポジウムを開催した。こうしたことから、本研究はおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
固有名に関して、「単文のパズル」と呼ばれるパズルからは、固有名が「個体のアスペクト(局面)」への指示を一義的に行うという帰結が導かれる。他方、「非存在言明のパズル」と呼ばれるパズルからは、「個体」を指示することが固有名の本来のはたらきであるという帰結が導かれる。本年度は固有名が示すこうしたゆらぎの正体を解明することに重点を置く。
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Research Products
(6 results)