2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
25370437
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
酒井 智宏 早稲田大学, 文学学術院, 准教授 (00396839)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 固有名 / 非存在言明 / 単称命題 / 記述名 / 記述主義 / ローカル性 / グローバル性 / 指標説 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究成果は主に次の二点である。 第一に、固有名に関する記述主義をサポートする証拠とみなされてきた非存在言明のパズルが、実は、記述主義と相反する立場である単称主義をサポートするものであることを示した。「固有名 = 個体につけられたラベル」というミル的な考え方のもとでは、「ペガサスは存在しない」のような非存在言明がパズルを引き起こす。個体を指示するはずの「ペガサス」が「存在しない」というのは矛盾でしかないからである。この論文では、非存在言明を文法的注釈とみなす野矢茂樹の考え方と、「切り裂きジャック」のような記述名を「いずれ記述を介さずに対象を指示できるようになることを期待された名前」とみなすF. Recanatiの考え方を統合し、「PNは存在しない」が「『PNはQだ』は単称命題ではない」(PNは任意の固有名、Qは任意の述語) を意味すると考えることで、単称主義のもとで非存在言明のパズルを解決した。 第二に、固有名のローカル性とグローバル性をともに考慮することにより、「固有名は言語システムの一部ではない」というテーゼ(T)を整合的に解釈することができることを示した。Recanatiは、固有名とその指示対象との結びつきに関する知識が言語知識に含まれない(それゆえ固有名解釈に言語外の知識が関与するとする指標説が正当化される)ことの根拠として、その結びつきがローカルなものであるという事実をあげる。しかし、それだけでは固有名と専門用語が区別ができなくなる。実際には、固有名はローカル性とグローバル性を併せ持つという点で専門用語と異なる。たとえばBarack Obamaという人物を知っている英語話者は英語話者の一部にすぎないが、この名前をこのままの形で理解することのできる話者の集合は既存のどの言語の話者の集合にも包含されない。これこそがテーゼTの意味することにほかならない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」に記した成果のほか、「単文のパズル」に関する英語論文を学術誌に投稿するなどの成果をあげることで、次年度の研究の準備を整えることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の仕上げとして、意味排除主義と単称主義と統合した固有名論を構築し、その成果を学術誌に投稿する。「固有名とは個体に対する特定の関心のあり方から生じる範疇である」とする意味排除主義においても、けっして「個体」が排除されるわけではない。個体の存在を前提としたうえで、その個体をある関心のもとに捉えることによって成立するのが固有名であり、この個体の存在前提が崩れたときに姿を現すのが非存在言明である。この考え方のもとでは、「単称命題 = (低次存在者たる)個体に関する命題」という定義を変更する必要はなく、意味排除主義は、これに「個体が概念として切り出される際には、必然的に高次の関心のあり方が伴う」という事実を付け加えるにすぎない。かくして、固有名に関する単称主義と意味排除主義が統合されることになる。
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Research Products
(4 results)