2013 Fiscal Year Research-status Report
句構造の形成と解釈における意味的選択、形態的選択および発話行為整合性の役割
Project/Area Number |
25370445
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Nanzan University |
Principal Investigator |
斎藤 衛 南山大学, 人文学部, 教授 (70186964)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ラベリング / 文法格 / 自由語順 / 語彙的複合動詞 / 句構造形成 / 述語屈折 / 項削除 / 多重文法格 |
Research Abstract |
平成25年度の主要テーマである日本語文法格の存在意義と与値メカニズムに関する研究を予定通り遂行した。存在意義については、Saito (2011) において、句構造形成 (併合) を可能にするものであるとの仮説を提示していたが、これを Chomsky (2013) のラベリングとの関係において捉え直し、より具体的な分析を得るに至った。その結果、日本語文法格の存在意義を phi素性一致の欠如という日本語の根本的性質と結びつけることが可能になり、日本語文法を特徴付けるパラメターの研究が大きく進展した。与値メカニズムについては、Boskovic (2007) の理論を採用することにより、英語と同様の分析を維持しつつ、多重格等の日本語特有の現象を説明しうることを示した。 この成果は、論文「日本語文法を特徴付けるパラメター再考」(2013年9月) として公表し、また、日本英語学会第31回大会ワークショップ (2013年11月) においても発表した。phi素性一致の欠如を日本語の基本的性質として、項削除現象の存在を導き、phi素性一致に代わってラベリングを可能にすることが日本語文法格の役割であることを提案するものである。また、この仮説の帰結として、長らく問題とされてきた日本語の自由語順 (スクランブリング) についても説明が与えられることを示した。 上記の自由語順の分析において、日本語の述語屈折が、ラベリングにおいて文法格と同様の役割を担うことを示唆したが、これにより、語彙的複合動詞という日本語のもう一つの特質を関連付けて説明する展望が開けた。そこで、来年度に予定していた日本語語彙的複合動詞の研究を前倒しして開始し、基礎的分析を共著書『複雑述語研究の現在』(2014年1月) に発表した。その特質が選択制限から導かれることを論じ、エド語連鎖動詞との比較によって分析を検証したものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
日本語文法格の存在意義に関する研究が、Chomsky (2013) のラベリングに関する議論をふまえることにより、予想外に大きく進展した。本研究プロジェクトの最終目標は、日本語文法を規定するパラメターの解明にあるが、本年度の研究により、文法格の役割と与値を基軸として、項削除、多重格、自由語順、語彙的複合動詞、主要部後置型句構造などの日本語の主要な特徴を関連づけて説明する目処がすでに立った。最終年度 (平成27年度) に成果をまとめた著書を執筆する計画であったが、予定を早めて、準備にとりかかる予定である。 来年度の中心テーマである語彙的複合動詞の研究もすでに開始しており、基礎的な分析を終え、成果を公刊することができた。極めて自由な複合動詞形成を許容する中国語との比較により、分析をさらに検証し、この研究を完成することになる。また、wh句の解釈、語順の意味解釈への影響、右方周縁部の要素に係る共起制限等、日本語に固有の現象から、一般理論への帰結を導く研究も着実に進めることができた。語順の意味解釈への影響については、束縛理論の定式化と連鎖の解釈との関係を論じた論文 "Remnant Movement and Chain Interpretation" をフランクフルト大学において開催された国際会議 (2013年6月) で発表し、また、台湾中央研究院で "Japanese Wh-Phrases as Unvalued Operators" と題する講演 (2014年3月) を行い、wh句の日中語比較に基づいて、演算子-変項関係の形成に係る一般理論について論じた。いずれの研究も、さらに深めて論文として公刊する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
(1) 項削除、多重格、自由語順、語彙的複合動詞、主要部後置型句構造などの日本語の主要な特徴を統一的に説明するための研究をさらに追究して、完成させる。2014年9月に慶応義塾大学言語文化研究所にて、5日間の連続講演を行うことになっており、そこで成果を公表した後に、著書の執筆にかかる。 (2) 日本語の自由語順に関する研究を進め、上記のフランクフルト大学での研究発表を論文にまとめて、公刊する。束縛理論と連鎖の解釈を、フェイズの循環的解釈モデルに組み込むことにより、これまで謎とされてきた現象に説明を与えることが主要な目的である。また、wh句の日中語比較についても研究を継続して、成果を論文にまとめる。中国語のwh句が変項として解釈されるのに対して、日本語のwh句は「か、も」等の小辞によって意味内容を指定される演算子であるとすることにより、後者の特徴を捉え、さらに、この分析を、英語やセルボ・クロアチア語などのヨーロッパ系言語のwh句にも適用して、その帰結を追究する。 (3) 日本語のモーダル、補文標識、談話的小辞に関する研究も継続して行っており、そのカートグラフィー理論への帰結をまとめて、公表する。作業仮説は、独立したものであると仮定されているカートグラフィーが、形態的、意味的選択や意味、談話行為の整合性から導かれるとするものである。特に、補文標識の意味分析に焦点を当てて研究を進め、分析のロマンス系諸語やトルコ語への適用も視野に入れて、その一般性を検証する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
文法格の研究、wh句の研究において、コネティカット大学のZeljko Boskovic氏との共同研究が重要な位置を占める。平成25年度に氏を訪問し、集中的に共同研究を行う計画であったが、氏が来日する機会があり、共同研究を一部分行うことができたため、コネティカット出張を1年延期することにした。この延期により、より充実した共同研究を行うことができるものと考えている。また、海外での学会発表についても、平成25年度は、招聘によりドイツと台湾で成果を発表する機会があったため、平成26年度あるいは平成27年度に延期して、研究をさらに進めた上で、学会発表を行うこととした。 コネティカット大学に出張し、Zeljko Boskovic 教授と、句構造形成、文法格、wh演算子の意味解釈について共同研究を行う。また、北米あるいはヨーロッパの国際学会にて、研究成果を発表する。
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