2013 Fiscal Year Research-status Report
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25370450
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kansai Gaidai University |
Principal Investigator |
鈴木 保子 関西外国語大学, 外国語学部, 准教授 (00330225)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | サンスクリット語 / 子音結合 / 子音変化 / 重子音化 / 半母音 / そり舌化 / 中期インド・アーリア語 / 同化 |
Research Abstract |
平成25年度は次の2つのテーマの研究を並行して進めた。 1.重子音化 サンスクリット語の重子音化現象は他の子音類より閉鎖音により起こりやすいという点では一般的な傾向と合致するものの、単一の子音ではなく子音結合におこる、アクセントなど一般的に重子音化を引き起こす要因によらない、非常に広範囲であるなどの点で特異で、しかも従来の音節構造に基づく分析には問題があり、その背景・要因は十分に解明されたとは言えない。これまでの研究で明らかになったことは、重子音化の背景は連続する子音の調音をより容易にする調音上の要因に加えて、聴覚的な要因もかかわっていると考えるのが妥当である。また、他言語の重子音化現象とは本質的に異なると考えていたが部分的に共通点のある類似現象がヌーン語やハンガリー語にあることが判明した。このテーマについてはさらに他言語の重子音化現象を精査し、音現象一般の調音・聴覚・音響的要因について追求する必要がある。 2.半母音の多様性 サンスクリット語の流音と渡り音はいずれも音節主音になるという共通性を持ち、伝統文法で半母音という1つのグループをなすが、音素配列や連声規則および中期インド・アーリア語の子音結合の変化において異なる特徴を示し、l > w > j > rという子音性の階層をなす。4つの半母音の異なる特徴はきこえ度など抽象的な概念では説明することができず、主にその調音に起因する。すなわち、lは舌尖により部分的な閉鎖がある、wは音声的に接近音ではなく摩擦音である、また、rはさまざまな証拠から他の半母音より開口度が大きいという特徴から上記のような階層が形成される。この成果はThe class of semivowels in Sanskritというタイトルで論文にまとめて『関西外国語大学研究論集』第100号に投稿し、現在審査中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
サンスクリット語の子音変化の多様性を解明する趣旨の三カ年の本プロジェクトでは、平成25年度に重子音化、26年度に半母音の多様性、27年度には歯擦音のそり舌化と年度ごとに異なるテーマを扱う計画であった。初年度テーマの重子音化は非常に特異で他言語によく見られる重子音化と異なり、サンスクリット語の他の音韻現象との関連やその調音・聴覚的基盤の探求、他言語の類似現象の検証など解決すべき問題が多い。具体的には、サンスクリット語の他の子音結合の変化として、閉鎖音と鼻音の間に部分的に鼻音化された閉鎖音が生ずる挿入現象、歯擦音と鼻音の間に鼻音と同じ調音点の閉鎖音が生じる挿入現象、さらにrと摩擦音の間に挿入母音が生じる現象があるが、一見いずれも共通して子音結合全体が長音化しているが、閉鎖音挿入の2現象は明らかに調音ジェスチャーの時間再配分で聴覚上の効果はないが、母音挿入はrを聴覚上より際立たせる効果があるため、共通した基盤が見いだせない。さらに、重子音化は聴覚的には子音結合をなす子音をより明確にする効果があるようだが、閉鎖音の重子音化では聴覚の手がかりのない閉鎖が長くなるのみで聴覚上の効果は不明である。今の段階では一般音声学や他言語の類似現象の分析・解釈に関する文献にあたるなどさらに研究を進めるべきであると判断した。 他方、並行して進めていた半母音の多様性に関する研究はサンスクリット語およびその後の発達におけるさまざまな音現象で4つの半母音はl > w > j > rという子音性の階層をなし、これはそれぞれの半母音の調音特徴に帰することができるという趣旨の論文をまとめることができ、4月上旬に学術雑誌に投稿した。 このように、25年度に予定していたテーマがさらに時間を要するもののある程度の進展があり、26年度に予定していたテーマを先駆けて論文にまとめることができたので、おおむね順調といえる。
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Strategy for Future Research Activity |
1.サンスクリット語の重子音化 現時点での課題は次の5点である。第一に、重子音化はサンスクリット語の子音結合に見られる他の挿入現象と同様子音結合全体が長音化されており、共有する背景があると考えられるがこの背景が何かを他言語の類似現象の検証をもとに考察する。連続する子音間に起こる子音・母音の挿入は類例が多くその調音および聴覚的背景に関する研究は多数あるが、重子音化を同様の現象と見る研究は他に存在せず、十分に主張を検討・根拠づけする必要がある。第二に、ヌーン語の重子音化やハンガリー語の単子音化など他言語の類似現象を調べてその一般的な傾向をサンスクリット語の重子音化の解明に役立てる必要がある。第三に、サンスクリット語の重子音化は明らかにアクセントなど一般的に重子音化を引き起こす要因によらないもので、その背景にあるのは連続する子音の調音をより容易にするためであると考えられるが、この仮説は調音音声学に基づく根拠付けが必要である。さらに、近年、音現象の聴覚・音響的要因を主張する研究が多数出版されているが、この概念を重子音化に適用する際、重子音化は子音の前/後の子音をより識別しやすくするという主張は裏付けが必要である。第四に、現象の複雑さ・広範さは明らかに複数の類似した過程が相互作用した結果であると考えられるが、それぞれの過程の対象および条件をより明確にする必要がある。第五に、音節構造のみに基づく重子音化の分析は問題があり受け入れられないが、重子音化に複数の過程がかかわっているならばその一部の過程は頭子音の強化など音節構造により条件づけられているという可能性を追求する。 2.歯擦音のそり舌化 平成26年度は準備段階として歯擦音のそり舌化について文献を精査して事実関係を整理して問題点を明確し、平成27度にさらに考察を深めて分析を進め、主張・議論を補強する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
物品費および旅費に端数があるため。 2,620円と少額なので物品費または旅費の一部として使用する予定である。
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