2014 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
25370452
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Research Institution | National Institute for Japanese Language and Linguistics |
Principal Investigator |
上野 善道 大学共同利用機関法人人間文化研究機構国立国語研究所, 大学共同利用機関等の部局等, 客員教授 (50011375)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | アクセント / 琉球方言 / 式保存の有無 / 多型アクセント / N型アクセント |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は,琉球方言を中心にアクセントの現地調査を行なった。具体的には,奄美群島の喜界島方言(小野津,志戸桶,佐手久,中里,坂嶺等),徳之島方言(浅間),与論島方言(麦屋東区,朝戸,那間,茶花等),沖縄列島の久米島方言(具志川,嘉手苅,儀間,比嘉等),そして先島列島の与那国方言(祖納)である。 久米島方言以外は,すでに長期間に渡る調査によってその体系を(概ね)把握済みであったので,新たに地名を前部要素に持つ生産的な複合語(「鹿児島料理,広島名物」など)と外来語のアクセントを中心に調べた。一部は(助)数詞のアクセントも調査した。久米島方言は,国立国語研究所の調査に参加したときの成果を基に,さらに補充調査と地点の拡充を行なった。 その成果は以下の通りである。(1)喜界島中部の中里・坂嶺方言は,これまで体言は2型アクセントだとしてきたが,「広島」などの4拍地名語彙にもう1つの型(-3のγ型)のある3型アクセントであることが判明した。α/β/γに応じた複合語の式保存は成り立たず,前部要素とは無関係に基本的にβ型になる。(2)徳之島浅間方言では,前部要素の高起/低起の式保存法則が生産的な複合語においては例外なく成り立つのに対して,伝統的な方言形においては一部に例外がある。(3)多型アクセントの与論島東区方言では,前部要素の有核/無核に応じた式保存法則が,生産的な複合語においては例外なく成り立つのに対して,伝統的な方言形には徳之島以上に多くの例外が見られる。(4)与那国島方言は3型アクセントであるが,伝統的な複合語では式保存は見られない。生産的な複合語は,別の話者に聞いたが,複数単位形が多く出るという特徴が見られた。(5)久米島方言はまだ調査の途中であるが,たとえば具志川方言では4拍語に少なくとも4種類の対立が見つかっており,少なくとも3型には納まらない体系であることは明らかである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
琉球方言は順調に調査ができたが,その一方で,本土方言側は一部しか調査ができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
与論島方言や徳之島方言では,式保存法則(拡大版も含む。以下同様)が,伝統的かと思われる複合語では様々な程度に例外が出るのに対して,明らかな新語である生産的な地名複合語では規則的に守られるという現象が見つかった。これは,たとえば本土の岩手方言における,伝統的な複合語では式保存法則が守られるのに対して,生産的な複合語では守られないという現象とは逆の関係になっている。また,式保存法則は,喜界島方言ではどちらにおいても成り立たず,一方で鹿児島方言ではそのどちらにおいても規則的に成り立つということも分かっている。 これらの4つのタイプにおいて,特に与論島方言と徳之島方言の現象をいかに解釈するか,これらの方言ではなぜそうなるのか,そして式保存法即の有無を判定するためにはどちらに基づくべきであるかという,従来のアクセント研究では想定されていなかった新しい研究課題が生じた。
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