2014 Fiscal Year Research-status Report
現在の中央アジアにおけるリングァフランカとしてのロシア語の特徴と変容の研究
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25370458
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
柳田 賢二 東北大学, 東北アジア研究センター, 准教授 (90241562)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 中央アジア / ウズベキスタン / ロシア語 / リングァフランカ / 言語接触 / 音韻論 |
Outline of Annual Research Achievements |
9月には比較的若い世代の学校教師3名のほか専門学校学生1名という計4名のサマルカンド在住ロシア語話者に会ってインタビューを行い、対露感情やロシアへの移住の意向の有無のほか、同地のロシア人自身が自覚している方言的特徴やこれまでにロシアのロシア人から「訛り」として指摘された音韻論的レベルでの特徴等について尋ねた。また、専門学校生にはタシケントの非ロシア人の会話語でしばしば現れるシンタクス上の非規範的特徴について、それらが許容されるか否かについて詳細な聞き取り調査を行った。その結果、同地では標準ロシア語で無声そり舌摩擦音としての実現しか許容されず口蓋化のあり得ない/Ш/を半口蓋化した無声前部硬口蓋摩擦音として発音することが常態となっていて学校の英語教師ですらその非規範性に気付かない段階に至っていることや、また、ロシアでは到底許容されない語順を含む文が同地のロシア人の会話語では許容されている事実を確認することができた。また12月にはタシケントにて3名の現地生まれロシア語単一話者インフォーマントに会い、主に音韻面に関する聞き取り調査を行った。その結果、特に若年層においては上出のそり舌摩擦音音素/Ш/が半口蓋化子音として実現されるのが常態となっているため口蓋化前部硬口蓋摩擦音音素/Ш’/との区別が曖昧となり、調査者がそり舌摩擦音音素/Ш/を含む語を含む短い例文を意図的に完全な口蓋化音[Ш’]を用いて発音してもそれが誤りだと考えないという事実を確認して録音することができた。また、こうした現象がウズベク語との言語接触に由来する可能性を示唆するいくつかの現象も観察できた。この点に関する今後の研究に資するため、標準ウズベク語に近い方言を話すチュルク語学専攻大学院博士課程学生に依頼して持参した最新のラテン字表記ウズベク語教科書にある全文を録音してもらい、MP3ファイルとして持ち帰った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨春時点ではキルギスでも調査を行うことを想定していたが、前年現地で採取した音声資料を再検討しているうちに調査地域を広げるよりもタシケントとサマルカンドというウズベキスタンの二大都市におけるロシア語単一言語話者の言語を微視的に観察して詳細な分析を加えることの方が得るところが大きいと考え、また、時間的および予算的にもこの方が無理がないと考えたので、本研究計画の当初計画からはずれが生じている。しかしながら両都市のロシア語単一話者たちへのインタビューで得られた知見は、特に音韻論レベルにおいて予想を大きく上回るものであったので、「おおむね順調に推移している」と考える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度も引き続きタシケント、サマルカンド両市におけるロシア人等ロシア語単一話者へのインタビューという方法による調査を続ける。これまでの研究によって、同国のロシア語単一話者のロシア語には本計画立案時に既にその存在を知っていた「時」および「条件」の接続詞の文頭から2語目への配置というシンタクス上の特徴のほか、無声非口蓋化そり舌摩擦音音素/Ш/の口蓋化およびそれによる無声口蓋化前部硬口蓋摩擦音音素/Ш'/との区別の曖昧化という現象が、特に若い層において極めて顕著に見られることを発見した。このことを受け、今年度は専門学校生や大学新入生といった若い人々を対象とし、シンタクスならびに音韻面に関するインタビュー調査を行う。また、計画終了後にはそれらを分析してウズベキスタンのロシア語単一話者の言語がどのような変容を遂げつつあり、どのようにロシアのロシア語と離れつつあるか、また、その原因として明らかに言語接触を挙げることができるかについて論文を執筆し、学会誌または学術雑誌に発表する。
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