2015 Fiscal Year Annual Research Report
現在の中央アジアにおけるリングァフランカとしてのロシア語の特徴と変容の研究
Project/Area Number |
25370458
|
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
柳田 賢二 東北大学, 東北アジア研究センター, 准教授 (90241562)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | ロシア語 / 言語接触 / ウズベキスタン / 音韻論 / 音変化 / そり舌摩擦音 |
Outline of Annual Research Achievements |
2015年9月と12月にタシケント・サマルカンド両市の中高生層のロシア語単一話者らに面接調査を行った。その結果、両市とも中高生層のインフォーマント全員において無声そり舌摩擦音音素/ш/が半口蓋化子音となっており、調査者が敢えて/ш/を含む語を含む短い例文を完全な口蓋化音[ш']として発音して聞かせてもその部分が誤りだとは考えないなど、/ш’/との区別が曖昧化しつつあることが確認できた。さらに50年以上タシケントに住む高齢者の発音と対照した結果、若年層では/ш/のそり舌音性が確かに低下していることが確認された。 ロシアでは「アクセント直前音節での/ш/の後の/a/の特殊な弱化の消失」という現象が起きているが、ロシアでのこの現象は/ш/のそり舌音性(つまり非口蓋化音性)によって説明され得る。他方、外見上これと同じ「アクセント直前音節での/ш/の後の/a/の特殊な弱化の消失」という現象がウズベキスタンにおいても起きているのだが、本年度中の調査により、同国ではこの現象が「/ш/の脱そり舌音化」というロシアにおける説明と完全に相矛盾する現象と並行して進行していることが分かった。 また高齢層と若年層の両方において語中の-зж-が現在のモスクワで聞かれる[жж]としてではなく、 [ж'ж']という20世紀の規範ロシア語にあったのと同じ古い特殊な子音で発音され続けているという事実が確認された。 上記のうち後二者の現象は、そり舌摩擦音音素を持たないウズベク語母語話者のロシア語がロシア語単一話者の音韻面に影響し、一方では音変化、他方では古い音の保存として現れたものと解釈できる。このような現象が可能であることに気付いたことが本年度の最大の成果である。
|