2013 Fiscal Year Research-status Report
教室談話における「発問-指名行為」の社会言語学的研究
Project/Area Number |
25370483
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Saga University |
Principal Investigator |
達富 洋二 佐賀大学, 文化教育学部, 教授 (40367983)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 教室談話 / 発問 / 指名 / 教師の授業コミュニケーション力 |
Research Abstract |
教室談話は,「①教師の発問」→「②児童の挙手」→「③教師の指名」→「④児童の発話」→「⑤教師の評価」という構造によって展開することが一般的である。教師は何を根拠にして指名を行うのか,挙手はしたが指名できないままにしておいた児童の発話をどうするのか,発話するタイミングを逸しているが発話してしまった児童の発話をどのように編集するのか,そのために分断された教室談話の文脈をどのように復元するのか,など検討しなければならない事実は多い。これらについて詳細に検討することは質の高い授業を行うには必要なことであるが,これまで着手されてこなかった。 本年度に実施した研究の成果として,教室談話における「発問-指名行為」の事実の傾向を明らかにすることができたことがあげられる。複数の機器(動画記録・写真記録・音声記録)を用いることで,学習者の挙手の事実(挙手するタイミングや挙手をやめるタイミング等)について正確な記録を残すことができた。また学習者の挙手の事実に対する教師の指名行為(指名する手がかり,判断,実際の指名)についてもトランスクリプションと発話思考記録や内観報告記録とを併用して考察することでその傾向を明らかにすることができた。 このことをふまえ,次年度以降の研究計画を継続することで,日常の授業改善に不可欠とされている教師の授業コミュニケーション力の習得と習熟のための手がかりとして活用できるものと考えられる。また,教室談話の事実を克明に記述し分析することで,教室談話における児童と教師の相互行為の事実が可視化され,教師の授業コミュニケーション力の方略を類型化できる。ここに本研究の意義がある。 教師の授業コミュニケーション力を向上させるための具体的な方略を明らかにすることはこれからの教員の指導力向上に向けて重要な課題である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究がおおむね達成できたと考えられる理由を基礎研究と実証的調査研究とに分けて記述する。 基礎研究においては,藤生英行著『教室における挙手の規定要因に関する研究』(1996)を中心に,「発問-指名行為」にかかわる先行研究調査を隣接する学術分野において詳細に進めることができた。 実証的調査研究においては,以下の通りに研究を進めることができた。本研究において研究期間内に明らかにしようと考えている課題は,研究課題①:「発問-指名行為」の研究(教師の指名行為の方略),研究課題②:「発話機会提供-談話編集」の研究(児童への発話機会提供の方略)であるが,一年次の本年度は研究課題①について実際に実際の小学校において国語科の授業をもとに調査研究を行い,以下の2点について計画を概ね達成することができた。 「ア)教室談話における「発問-指名行為」の事実の傾向」については,小学校4年生の国語科授業におけるトランスクリプションを作成し,詳細な分析を行った。本トランスクリプションは,教師の発問直後に挙手した児童名と,その後,教師が指名した児童名とその児童を指名した意図(その時点での教師の発話思考記録)を記録した。動画記録の視聴や授業の文脈の記憶をたどった記述をもとに授業者および協力者(参与観察者)によって分析を行ったが,その作業は複雑で時間を要するものであった。しかし授業者および協力者の見解および結論に複数の共通性が見いだされた。この共通の見解が「教室談話における「発問-指名行為」の事実の傾向」ととらえることができる。 「イ)児童が発話しようとする内容とタイミングを調査(クリッカーによる調査)」については,2実践において記録をとることができた。学習者の機器の使い方の習得やに課題がみられたが,改善の方法も明らかになったため次年度以降の研究は計画通り進めていくことができると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
基礎データの分析による教師の授業コミュニケーション力の検討として,「発問-指名行為為」及び「発話機会提供-談話編集」の傾向を明らかにするために,教室談話のVTRをもとに作成したトランスクリプションと授業者の語りのプロトコルを詳細に検討する。 また,児童が発話しようとする内容とタイミングの傾向を明らかにするために,実際の教室談話において,児童が発話しようとする内容とタイミングにかかわる質問について,児童にクッリカーを使ってリアルタイムで回答させそれを記録として残す。 さらに,教師の授業コミュニケーション力を向上させる具体的な方略の類型化を図るために,発問から始まる教室談話過程における児童の新規の発話と共起する教室談話の文脈の修正や調整という教師の授業コミュニケーション力の技術がはたらいている事実を,社会言語学的なアプローチによって省察することで,教師の授業コミュニケーション力を向上させる具体的な方略の類型化を図る。
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Research Products
(1 results)