2013 Fiscal Year Research-status Report
新言語形成の1類型-極北の言語ドルガン語をモデルとして-
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25370493
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kobe City College of Nursing |
Principal Investigator |
藤代 節 神戸市看護大学, 看護学部, 准教授 (30249940)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ドルガン語 / チュルク語 / 言語形成 / 言語接触 / ウイグル語 / ロシア語 / ルチコフ / 言語生態 |
Research Abstract |
計画の初年度である25年度はロシア科学アカデミー東洋文献研究所古文書部に所蔵されている20世紀初頭のルチコフ辞書カードに記載されたドルガン語彙と現代のドルガン語話者から得た語彙データを対照し、まず、現代ドルガン語とルチコフ辞書のドルガン語彙の差異を整理した。ルチコフ辞書のドルガン語も現代語と同じく、その形成の中心的基盤となったヤクート語来源の語彙が大多数を占めてはいるが、中にはルチコフ辞書のみに見られる来源不明の語彙もある。これらは、ドルガン語形成に関わった周囲に位置する言語にその来源を見出せる可能性もある。初年度は、主に、現代ドルガン語との差異を整理し、ルチコフ辞書に散見される現代ドルガン語あるいはヤクート語から逸脱した形式について、検討した。その際には、言語学的資料のみではなく、民族学などを中心した学術資料の他に、特に帝政ロシア時代のシベリア探検家の遺した資料や旅行記等も参照した。来源を求める作業については、アルタイ諸言語についての資料は数量は多くはないものの比較的利用し易かったが、当時のドルガン人等が比較的密に接触していたガナサン語の資料や、地勢的にみてかつて接触していた可能性のあるエニセイ諸言語についての資料に利用できるものが少なく、不明語彙についてあまりその来源を確認できたとは言えない。 しかし、現代ドルガン語との語彙形式との相違から、ルチコフの調査した時期のドルガン語は、現在タイムル地方で使用されているヤクート語彙に非常に近いドルガン語彙とは異なる点が様々にみられることがわかった。今年度の成果の一部は10月に北京市の中央民族大学で講演した。また、ドルガン語をチュルク語の一つとして言語接触の観点から分析していく上で重要な歴史言語学的視点からの言語生態にも関わる分析研究を研究協力者等と数回の研究会を重ねて行い、成果をまとめることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ルチコフ資料の分析について順調に進めているが、言語資料不足、あるいは、19世紀~20世紀初頭の雑誌や書籍の資料の入手が難しいなどにより、やや手間取ることがある。とはいえ、ドルガン語の言語生態について、サモエード系言語の影響が現れていると伺われる部分について具体的に分析を進めるなどが出来ている。また、これまで埋もれていたルチコフ資料について研究を公表する準備が進んでいるため、本研究課題の目的に向かって概ね順調に進展していると考えている。。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も引き続き、ルチコフ資料の分析を続けるが、26年度はさらにルチコフ辞書のドルガン語形式が得られた背景について考察を重ね、この資料を介して明かにできる、いわばプロト・ドルガン語の姿をまとめたい。トルハンスク地方北部の諸言語が分布する中での新言語形成の一例として、ドルガン語の言語共同体のもつ特徴を精査していきたい。また、このルチコフ辞書に見出されるドルガン語資料が言語生態のプロセスにおいてどのように位置付けられるかを考察する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度に必要となる見込みであった研究成果取りまとめのための出版準備(画像処理、版下作成など)に要する費用の海外からの請求時期がわずかに遅れたため、結果的に前倒し額として請求確保していた金額に相当する補助金が次年度使用分となった。なお、年度をまたいでしまったが、新年度の早い時期に当該費用を使用した。 26年度は、引き続き20世紀初頭のトルハンスク地方の言語状況を背景としたドルガン語形成について研究を進めるが、一方で、チュルク諸言語の古文献に見られる異系統言語間の接触のあり方も参考にする。そのために古文献研究に従事する研究者をドイツあるいは中国から招聘し、研究討議(研究会)を行う。また、代表者は未入手のルチコフ資料の閲覧と、現代ドルガン語話者から言語情報を得るため、ロシアへ短期間渡航する予定である。
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