2014 Fiscal Year Research-status Report
江戸後期の著作者を対象とするスタイル能力の歴史社会言語学的研究
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25370516
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
渋谷 勝己 大阪大学, 文学研究科, 教授 (90206152)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 江戸語 / 多変種能力 / スタイル / スタイル切り替え / 山東京伝 / 歴史社会言語学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度も引き続き、(a)歴史社会言語学について行われた過去の研究を展望するとともに、(b)山東京伝の作品を主な対象として、そのジャンル間のことばの切り替えのありかたを調査し、分析した。具体的には以下のとおりである。 (a)歴史社会言語学研究の展望。これまで国内外で行われてきた歴史社会言語学研究の方法、対象、達成点、問題点、今後の課題を整理し、『歴史社会言語学入門』(大修館書店)の「第1章 歴史社会言語学の基礎知識」としてまとめた。 (b)山東京伝に見るスタイル切り替えの実態記述。山東京伝の作品のうち、洒落本、黄表紙、合巻、読本などからいくつかの作品を選び、そのなかで使用されている音便形を分析対象として、そのジャンル間での形式の使い分けの状況を整理した。その成果は、『歴史社会言語学入門』「第4章 山東京伝の作品に見るスタイル切り替え」としてまとめた。その他の言語項目についても、分析を進めている。 その他、本居宣長、大田南畝、曲亭馬琴の作品などについてもいくつかを選んで調査を行い、データベースを作成した。また、本研究課題の直接の分析対象ではないが、手元のハワイ日系一世代、カナダ日系人一世、二世の談話データを歴史社会言語学の視点からあらためて分析し直し、複数のスタイルをもつ言語使用者の、スタイルの習得、融合、切り替えのあり方、その多言語・多変種能力を解明する作業を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2年目の平成26年度は、(1)先行研究の批判的検討、(2)データベースの作成、(3)各著作者のもつ各書きことば変種の文法体系の記述、(4)各著作者のジャンル間でのスタイル切り替えのあり方の記述等の基礎的な作業を行うとともに、その成果を踏まえて、(5)言語使用者のもつ多変種能力をモデル化する作業を行った。(1)(3)(4)については2本の論文にまとめ、公刊した。その他の論文も準備中である。また(2)については、山東京伝の作品を中心に、エクセルを使用して、対象とした各文法事象の用例の入力を進めた。本居宣長、大田南畝、曲亭馬琴については現在用例を採集中である。 ホームページについては、現在、公開の準備を進めている。 2年目も、複数の著者のスタイル切り替えの実態を同時に分析しつつ、成果の公開は山東京伝にしぼって行ったが、分析、成果の公開とも、ほぼ計画通りに達成している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度は、主たる分析の対象を本居宣長と曲亭馬琴とし、前者は古典研究、随筆、古典の当代語訳等の作品を、後者については黄表紙、合巻と読本を中心に同様の方法で分析を進め、そのスタイル切り替えの実態を把握する。同時に、馬琴について、山東京伝の実態との異同を明らかにし、異なる点についてはその違いをもたらした要因を明らかにする。大田南畝についても、可能なかぎり分析し、宣長が使用したスタイルとの比較を行う。 以上を論文および成果報告書にまとめるとともに、これまでの成果とあわせてホームページで公開する。 すべて当初の計画通りである。
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Causes of Carryover |
用例分析のための資料の購入にあてる予定であったが、不足が生じるため、次年度購入することとした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度に予定している資料(『近代文体形成資料集成』)の購入費にあてる。
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