2016 Fiscal Year Research-status Report
漱石を通してみる近代日本人の書字行為と文字観、表記観の日本語学的研究
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25370520
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
佐藤 栄作 愛媛大学, 教育学部, 教授 (80211275)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 文字 / 書字行為 / 夏目漱石 / 字体 / 表記 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、研究代表者のこれまでの文字・表記研究の成果を基盤に、夏目漱石を中心とする明治の日本人にとっての書字行為=「書くこと」を分析することから、近代日本人にとっての文字観・表記観を明らかにし、漱石没後100年、生誕150年の節目に、漱石にゆかりの深い松山から、その成果を発信していこうとするものである。4年目は以下のように進めた。 まず、漱石の手書き資料については、生誕100年に合わせて開催されたいくつかの展示資料に新資料があり閲覧した。『坊っちやん』発表110年の年であり、改めて『坊っちやん』を取り上げ、原稿が活字化されることで生じる「ゆれ」について、近代・現代人がどのように把握するかについての分析を行い、近代日本における文字観・表記観解明につなげた。また、松山出身の書家三輪田米山の日記の文字・表記の実態を調査し、その結果の一部を報告した。江戸後期から明治にかけての手書き資料を翻刻する際の問題点を指摘し、それについての現代人の意識から、文字観・表記観に迫れるのではと考えた。 「書くこと」の研究の基盤となる「字体」については、昨年度の「常用漢字表の字体・字形に関する指針」のとりまとめの経験を通して、さらに私見を深めることができたが、全国大学書写書道学会のシンポジウムにパネリストとして招聘され、書写書道教育の専門家との議論の中で、やはり現代人の文字観に触れることができた。また仮名をどうとらえるかも重要な文字観に関わる事象であるが、表記研究会のシンポジウム「仮名の成立」にもパネリストとして参加し、私見を披露した。 7月には、没後100年記念講演会(石崎等氏)を開催し、1月から3ヶ月間、生誕150年記念の『坊っちやん』本と表記のバリエーションの展示を(成果報告を兼ねた講演会も)開催した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2016年度は、漱石の文字・表記を通して近代日本人の文字観・表記観を明らかにする研究の過程と成果を、漱石生誕150年記念展示「110年『坊っちやん』はそう変わったか」の開催(愛媛大学ミュージアム)と、それに関わる公開講演会の開催を通じて発信することができた。この展示は、『坊っちやん』本約70冊について、冒頭部分のバリエーション(約40種)を示し、それらにコメントを付したものである。 また7月には近代文学研究者石崎等氏による漱石没後100年記念公開学術講演会を開催できた。漱石以外についても、松山出身の書家三輪田米山の日記の文字・表記について分析した成果の一部を発表できた。 一方、文字観の基盤である字体研究については、全国大学書写書道学会のシンポジウムに招聘され、表記研究会の「仮名の成立」シンポでもパネリストを務めた。また、研究論文「字体の定義からみつ字体表・字体一覧、字体画像データ」『漢字字体史研究二』が刊行された。 以上から、本研究はおおむね順調に進んでいると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
2017年度も、7月に漱石生誕150年記念の公開講演会を開催予定である。すでに、講演者は漱石研究の第一人者に内定しており、漱石にとっての「書くこと」について「講演を文字化すること」に焦点を当ててお話しいただく予定である。また、漱石の書簡を永年研究されているもう一人の研究者に「倫敦消息」を対象に漱石の「書くこと 書簡から作品へ」についてお話しいただく。最終年度にふさわしい講演内容となった。 本年度は最終年度であるから、昨年度の『坊っちやん』冒頭部の文字・表記のゆれとその近代人・現代人の把握を中心とした報告書をまとめるつもりである。また、松山、熊本で、成果報告を予定している。
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Causes of Carryover |
28年度に限れば、配分された額をほぼ使用しているが、前年度までの使用額が少なかったため、次年度使用額が計画よりかなり大きくなっている。 実は、本年度開催した展示について、書籍をお借りした持ち主に対して謝金を出し、貴重本については特別な輸送代金が必要であると予想していたが、借用については謝金が出せないため支出がなく、特別な輸送でなく一般の輸送でよいという持ち主の許可もあり、輸送代も必要なかった。また、展示のための写真撮影代・パネル作成代については、愛媛大学ミュージアムで開催したため、科研から支出する必要がなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
最終年度を迎え、十分に研究費があるので、成果発表を積極的に行いたい。当初の計画以上に、数箇所で発表する予定である。また、展示の際に撮影した『坊っちやん』の冒頭部分の文字・表記のバリエーションについては、約70冊それぞれの写真を掲載した報告書を作成する予定である。
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Research Products
(6 results)