2015 Fiscal Year Research-status Report
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25370561
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Research Institution | Nippon Veterinary and Life Science University |
Principal Investigator |
松藤 薫子 日本獣医生命科学大学, 公私立大学の部局等, 准教授 (90334557)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 叙述的所有表現 / 言語獲得研究 / 日本語 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度の研究では、日本語児の自然発話資料に基づき、叙述的所有表現の獲得過程を考察することを目標とした。所有とは、所有者が譲渡可能な物を永続的に支配することをいう。松藤(2012,2014)の知見から得られた大人の言語知識に対して、以下のような子どもの獲得過程で見られる特徴を明らかにした。 (A)子どもの言語獲得過程にみられる特徴 a. 所有文も存在文も大人と同じ語順で使われた。b. 「ある」所有文では、所有者の意味は、人間で使われることが多いが、早期から動植物・人工物でも使われていた。所有者の名詞句に付加される「には/に/は」は使われない場合が多かった。使用頻度が少ないが「は」「に」「も」「が」が使われた。所有物の名詞句には定名詞句や関係節がみられず、定性の制限に従っていた。一方、「ある」存在文では、場所を表す位置には、場所表現が9割以上であった。存在物の名詞句には「に」が8割以上使われていた。存在物の名詞句に定名詞句や関係節がみられ、定性の制限はみられなかった。c.所有という意味を表す構文「X{には/に/は}Yがある」「X{は/が}Yを持っている」において、これらの構文が2歳台から使われ始めた。この2つの構文が表す意味の差異は大人の場合は、「ある」「持っている」を含む所有文と「持っている」の携帯文があるが、子どもの場合は、全体と一部の関係をとらえる「ある」状態文と「持っている」の携帯文であった。大人の言語知識には「ある」「持っている」の所有文があるため、日本語児の叙述的所有表現の獲得に関する仮説として(B)を提案する。 (B)日本語児の獲得過程には、「ある」所有文に関しては全体と一部の関係から所有者と所有物の所有関係への意味の拡張、「持っている」文に関しては、携帯から所有への意味の漂白化がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
科研費の助成を受け、研究計画に基づきおおむね順調である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度では、本調査を準備・実行する。まず、大人の言語知識をアンケートで確認し、その後、横断的・実験的な研究方法を採用して叙述的所有表現の獲得を調査し、数量的・質的分析を行う。 これまでの研究成果から不十分な点は、大人の言語知識に関しては、所有文において、文法的に可能な文が、運用上の発話単文では容認度が低い文がある。その場合、a)目的語を価値ある物や珍しい物にしたり、b)複文の中で用いたりすると容認可能になる文がある(背後にGriceの原則がありそうである。話し手は、コミュニケーションをするとき、たまたま頭に浮かんだ文を、それが文法的であるというだけで、口にすることは許されない、協調の原則cooperaive principle)。文という形式は共通であるが、所有文と所有文以外の出来事の描写叙述文とは異なる特徴がある。子どもの言語知識に関しては、日本語児は「人{に/は/には}物がある」という所有文において、人を表す名詞句に付加される格助詞は使われない場合が多く、「に」は全く観察されなかった。また、「持っている」は携帯のみを表し、所有では使われていなかった。 平成28年度では、成人に対してアンケートや聞き取りを行い、言語知識を確認する。 日本児に対して調査1として、所有文の「に」「は」を真似できるかどうかを引き出す調査をする。調査2で、調査1で真似できる所有文と所有文「持っている」の真似のし易さを確認する調査をする。そのほか、認知上、所有者の人間は物の存在する場所と把握されるという指摘がある(池上2006:166)この点を確かめたい。その後、存在文と所有文の理解を確認する調査ができればと考えている。
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Causes of Carryover |
計画的に使用したが、計画値と実際値で誤差が130円生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
言語獲得関連図書と英語学関連図書は、研究資料として使用する。使用目的は、広範囲の言語の所有表現に関する資料を収集する、言語(獲得)理論の理解を深める、所有表現の言語間変異・獲得に関する成果と課題の確認を行う。 調査補助員または資料整理の補助員への謝金は、調査における補助労働の経費または、所有表現に関する文献リスト作成や発話資料の収集・整理の補助、調査資料の整理の補助労働の経費である。旅費は、国内の学会に参加し情報交換や情報収集を行う。複写費、文具、英文校閲などは研究支援費として使用する。
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