2016 Fiscal Year Research-status Report
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25370561
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Research Institution | Nippon Veterinary and Life Science University |
Principal Investigator |
松藤 薫子 日本獣医生命科学大学, 応用生命科学部, 准教授 (90334557)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 第一言語獲得 / 叙述的所有表現 / 所有文 / 日本語学 / 英語学 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度では、横断的・実験的な研究方法を採用して、日本語の叙述的所有表現(以下、所有文)の自然さに関する調査とそれに基づく子どもの所有文の獲得に関する調査をし、数量的・質的分析を行うことを目的とした。 平成25年度から27年度では、叙述的所有表現に関して、大人の言語知識でどの部分が普遍的で、どの部分が言語経験を通して獲得されるのかを明らかにした。主に英語児と日本語児の自然発話資料の分析結果に基づき、英語児と日本語児の叙述的所有表現の獲得過程の解明を試みた。平成28年度では、これまでの研究成果から不十分な点を明らかにし、横断的調査を2種類行った。 1つは日本語の所有文の自然さに関する調査である。日本語の代表的な所有文の1つに、[所有者「人」+所有物「具体的物体」+動詞「ある」]という形式が使われ、文法的ではあるが、所有物の意味的特徴や所有文を使う際の語用論的特徴にはあまり関心が払われていない単文が、研究書や論文などの例文として用いられてきた。自然な所有文にするために、統語的・意味的・語用論的特徴を考慮し、これまでの研究で不明であった点を160人の大学生のアンケート調査に基づき明らかにした。所有文の基本的語順は、「所有者+所有物+所有動詞」の順序であるが、その語順は固定しておらず、かき混ぜ操作により動詞を文末におけば語順は比較的自由であることを示した。具体的物体を所有する文では、所有物は価値のある物であるほうが自然である。動詞「ある」が使われる単文、動詞「ある」を含む文とその所有文を発話する理由を述べる文、動詞「持っている」が使われる文の順で自然であることを明らかにした。 上記とこれまでの知見に基づき、子どもの所有文の誘出調査を行った。この調査結果を分析し、獲得過程を考察している最中であるため、成果は、29年度に報告する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
科研費の助成を受け、研究計画に基づき、おおむね順調である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度では、28年度に行った子どもの叙述的所有表現の誘出調査の結果を分析し、獲得過程を考察する。その後、叙述的所有表現の獲得のメカニズムの解明に取り組む。 平成25年度~28年度までに叙述的所有表現に関して基礎的研究に基づき、平成29年度では、その研究成果から得られた証拠や知見を、言語の普遍特性、変異特性、言語獲得に関する論理・発達的問題に対して説明しうる言語理論に展開するための基礎となる研究を行う。具体的には、獲得研究から普遍文法の内部構成と言語獲得原理を検討する。 現実の言語獲得は時間軸に沿って進行するが、生成文法理論では、時間軸を捨象して、普遍文法と言語獲得原理を含む言語獲得装置に、言語経験の総和が一括として取り込まれると仮定し、言語獲得装置からは瞬時に大人の各個別言語の文法が出力されるという言語獲得を理想化した瞬時的言語獲得モデルを提案している。「発達」の問題を説明しうるには、普遍文法のあるものは、獲得過程のある時期まで待たないと発現しないと仮定する成熟仮説を組み込んだり、一定の経験が与えられたときにパラメータの値をどのようにして定めるかを規定する仕組みを言語獲得原理として定めたりする必要がある。一方、生成文法理論の精神に従っているが、普遍文法を静的な大人の文法だけで規定しない動的文法理論では、普遍文法の内部構成を非瞬時的な動的過程として規定するため、「発達」の問題に対して特別な仕組みは必要ない。獲得過程にみられる各段階の文法の諸特徴が習得可能な文法を狭く限定し、言語間変異を捉えるのにも重要な役割を果たしている。最終年度平成29年度では、平成25年度から28年度までに叙述的所有表現に関する大人の知識の解明と子どもの叙述的所有表現の獲得過程の解明を踏まえて、普遍文法と言語獲得原理がどのようなものでなければならないかを検討する。
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Causes of Carryover |
計画的に使用したが、計画値と実際値で誤差が18円生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
言語獲得関連図書、英語学関連図書、言語学関連図書は、研究資料として使用する。広範囲の言語の所有表現に関する資料を収集する。言語(獲得)理論の理解を深め、所有表現の言語間変異・獲得に関する成果と課題の確認を行う。旅費は、国内の学会に参加し、情報交換や情報収集を行う。また、研究成果を国内外の学会の場で発表し、情報交換や情報収集を行う。英文校閲費、複写費、印刷費、文具などは研究支援費として使用する。
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