2013 Fiscal Year Research-status Report
旧「満州」における日本語教育―皇民化教育の中で日本語教育が果たした役割について―
Project/Area Number |
25370592
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
伊月 知子 愛媛大学, 国際連携推進機構, 准教授 (30369805)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 「満洲・満州国」 / 日本語教育 / 植民地教育 |
Research Abstract |
本研究の目的は、旧「満洲」における日本語教育の実態と、それが当時の中国人の日本・日本人観の形成に与えた影響を解明することにより、これまで本格的な研究の俎上に載ることがなかった日本統治下の日本語教育について教育史上の空白を埋め、中国の日本語教育史全体のアウトラインを提示するとともに、日本語教育という観点から日中関係史の再構築を図ることにある。 平成25年度は、まず現存する戦前の日本語教育関連資料の閲覧・収集を行った。9月に中国へ赴き、中央民族大学及び大連外国語学院が所蔵する日本語教科書等を閲覧、10月から11月にかけて国立国会図書館(本館・関西館)にて旧「満洲」時代の記録・論文を中心に資料を閲覧、また当時の日本語教科書の復刻版を入手し、これらの資料の分析・考察を進めた。 次に、中国側の研究者(中国中央民族大学・蔡鳳林教授)の協力を得て、旧「満洲」時代に日本語教育が展開された大連・旅順を訪問(平成25年9月)、中国における植民地教育史研究の第一人者である斉紅深教授(遼寧民辨教育協会副会長)に面会、貴重な資料の提供を受けた。現地では元日本語学習者へのインタビューにも成功し、当時の日本語教育の実態について聞き取り調査を行った。 平成26年3月に、以上の資料分析と現地調査から得られた成果について「日本語教育方法研究会」(横浜国立大学)にて「旧『満洲』における日本語学習者の日本観形成の一要因」の題目で発表した。政府主導の植民地政策の一環として「皇民化」の意図が日本語教科書の中に実際に表出している例を指摘し、一方でこうした日本側の日本語教育推進に対する現地の教育関係者による「人材育成」を目指した取り組みに着目し、当時の記録や論文を手掛かりに、彼らの取り組みの意義について考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」に記した通り、おおむね研究計画通りに進行している。 具体的な達成内容として、1)戦前の日本語教育に関連する資料(日本語教科書、植民地教育関連文献)の収集を日本・中国にて行い、それらの資料への分析・検討を通じ、当時の日本語教育が政府主導の植民地教育として推進される中でも、現地の教育関係者らが独自に教育目標を掲げ、「人材育成」に取り組んでいた事実を明らかにした。2)中国側の旧「満洲」教育関係者(日本語教育・植民地教育研究者3名、元日本語学習者3名)への聞き取り調査を行い、当時の日本語教育の実態について情報収集し、そこから日本語教育の功罪と現代における評価について知見を深めることができた。3)これらの研究活動から得られた成果を発表し、日本語教科書に表出した植民地教育としての側面と本来の日本語教育としての側面を指摘し、当時の教育関係者の目指した取り組みに言及した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の遂行に際しては、当時の教育者が残した記録や論文に対する緻密な分析と同時に、実際の日本語学習者に対する詳細な聞き取り調査が必須である。資料に記録されない感情的側面も含め、当時の日本政府や教育政策の実態について語ることは辛い記憶を呼び起こすことに繋がり、これまで避けられてきた。これが中国の日本語教育史に空白の時期を生じた一因にもなっているのだが、本研究では中国側研究者と元日本語学習者の多大な理解と協力により、インタビューが可能となった。この関係者らとの信頼関係の構築・維持は非常に重要であり、平成26年度は文献に対する考察結果を携え、現地を訪問し、関係者から率直な意見を仰ぎ、また聞き取り調査を重ねることにより、本研究計画を推進していく所存である。 一方で、国内外の文献・資料収集も引き続き行う。初年度は収集した文献と情報の整理が滞りがちだったので、次年度は研究補助を活用し、文献整理を早急に進める。また初年度の発表を論文にまとめて関係学会(日本比較文化学会等)へ投稿するとともに、更に当時の教育関係者の足跡を丁寧に辿り、教育の実態に対する把握・分析を進め、その成果を関係学会や中国の教育機関で発表し、広く研究者から意見・批判を仰ぐ。その後、資料の不足や分析・考察への疑義が挙げられた場合、資料の再検討や考察の修正も視野に入れて適宜資料収集や分析のやり直しを行い、最終年度へ備える。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
「次年度使用額」が、482,783円生じたが、これは旧「満洲」地域にある教育機関が所蔵する現存資料について、持ち出しが難しく複写等に時間がかかるため、閲覧と複写を数回に分けて実施する計画だったが、研究協力者の計らいで資料の一部を借り出すことができ、初年度の渡航を減らすことができたためである。 上記の次年度使用額は平成26年度における現地調査の充実にあてる予定である。夏季に北京・大連へ赴き、新たに閲覧の必要が出てきた当時の日本語教育関係者に関する資料の閲覧・複写を行い、さらに中国側研究協力者のほか当該分野の研究者及び元日本語学習者に面会し、初年度の研究成果に対する意見・批判を仰ぎ、分析・考察の正確さを検討する。また「満州国」地域の現存資料にあたるため、冬季には大連の研究協力者の案内により教育機関や図書館が所蔵する貴重な文献を閲覧する予定である。
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