2015 Fiscal Year Annual Research Report
旧「満州」における日本語教育―皇民化教育の中で日本語教育が果たした役割について―
Project/Area Number |
25370592
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
伊月 知子 愛媛大学, 国際連携推進機構, 准教授 (30369805)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 「満洲・満洲国」 / 日本語教育 / 植民地教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、旧「満洲」の日本語教育の実態と当時の学習者の日本・日本人観形成への影響を解明することにより、これまで本格的な研究の俎上に載らなかった日本統治下の日本語教育について教育史上の空白を埋め、中国の日本語教育史を俯瞰し、日本語教育の視点から日中関係を再検証することである。 平成27年度は、長春と大連で当時の教育者の足取りを追うための資料収集と聞き取りを行い(8月)、また最終年度として、とくに中国東北地方や台湾での成果発表に努めた(8月吉林省延吉市、12月台湾台北市)。さらに海外の研究者と調査や意見交換を精力的に行い、共同研究に展開できるネットワークを複数国に拡げた。これを踏まえ、研究期間全体の成果は以下となる。 1.中国と日本に現存する日本語教育関係資料の収集と整理を行い、「満洲国」の日本語教科書と教育政策の法令資料を分析・考察した。これにより、当時の日本語教育が“国際的人材の育成”と“国家観念と日本精神の涵養”という二面性を備え、教科書の内容のみならず教育者の思想に大きく影響していたことが判明した。また元学習者への聞き取りも加え、それらが学習者の日本・日本人観を特徴付けていたことが確認できた。 2.当時の研究会記録や投稿論文をもとに、現地の教育者の教育理念を巡る対立構造を解明した。また「満洲国」教育の中枢部にいた元教育者の言論に対する分析も踏まえ、中国の日本語教育史でほとんど注目されてこなかった「満洲国」の一時期を明らかにすると共に、日本と「満洲国」の関係、教育者と学習者の関係を再評価することができた。 3.中国、台湾等の研究者とネットワークを構築し、広範囲で多角的な視点から研究するための基盤が形成できた。 以上により、本研究は「満洲国」の日本語教育に関し、教育史の空白を埋め、その否定的側面と共に新たに日本語教育の視点からの評価が加えられた点に大きな意義があると言える。
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