2013 Fiscal Year Research-status Report
教師の成長をめざす再帰的日本語教育実践研究法の構築
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25370595
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | University of Miyazaki |
Principal Investigator |
得丸 智子 宮崎大学, 教育文化学部, 教授 (60343612)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小林 浩明 北九州市立大学, 国際教育交流センター, 准教授 (10326457)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | TAE / ユージン・ジェンドリン / 日本語教師養成 / 教師の成長 / 内省 |
Research Abstract |
本研究は、ユージン・ジェンドリンが考案した思考法TAE(Thinking At the Edge)を応用した「教師の成長をめざす再帰的日本語教育実践研究法」の構築を目的としている。平成25年度は【理論モデルの策定】【研究ツール「TAEシート」の開発】【効果測定法の検討】をおこなった。 【理論モデルの策定】文献調査と研究会参加により情報収集を行い、動的生産的メタファ論を中核とするTAEの理論モデルを策定した。ジェンドリン哲学とマーク・ジョンションらの認知意味論の相違を研究し、ジョンソンらの認知意味論はプライマリーメタファを要素とする原子論を容認するのに対し、ジェンドリンはあくまでもメタファの動的生産性を重視する点に独自性があることを明らかにした。 【研究ツール「TAEシート」の開発】TAEは3パートからなるが、パート1の初心者用シート(3枚組)を開発した。パート2では教育実践用のシート使用法を工夫した。パート3では、従来の3枚シートを1枚にした簡易版を作成した。 【効果測定法の検討】新シートを用い、大学院生を対象に教育実習の振り返りを行った。平成26年度実施予定であった効果測定を前倒しでおこなった。その結果、TAEを用いた振り返りにより、自己効力感、肯定的自動思考、首尾一貫感覚がゆるやかに上昇することを明らかにした。 【研究成果の発表】2013年6月に25TH INTERNATIONAL FOCUSING CONFERENCEで「A Conceptual Metaphor in TAE process」と題して、理論モデル策定の成果を発表した。『主観性を科学化する(仮題)』(金子書房)第9章「TAEの理論と実際」を執筆し入稿した。新シートを使用したTAE実践を、10月に2013 年度第7回日本語教育学会研究集会で「TAEを用いた教育実習の振り返りによる学びの深まり」と題して発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、次の(1) から(5) を通じ、日本語教育実践研究のパラダイムの転換をはかることを目的としている。 「(1)哲学的議論をふまえて理論モデルを策定する」は順調に達成できた。TAEの展開原理がメタファの動的生産性であることを明らかにし、理論モデルの概略を確定した。計画していた海外での学会発表を行ったことに加え、TAEの理論的側面を著書の分担執筆としてまとめ、計画以上に達成できた。「(2)理論モデルに依拠した実践研究法を構築し、『TAEシート 』『TAEソフト』の研究ツールを開発する」のうち、「TAEソフト」の開発は平成26年度実施予定である。平成25年度は4種類の新「TAEシート」を開発した。「(3)国内外の日本語教師や日本語教育実習生に実践研究の実施を依頼しデータを収集する」は、開発した新「TAEシート 」を用いて教育実習生3名のデータを収集した。日本語教師に対するデータ収集は課題として残った。「(4)主に「教師の成長」の観点から効果を検証する」は、上記教育実習生3名を対象に、平成26年度実施予定であった「GSES(一般性自己効力感)」「PMS&PATS(肯定的気分と肯定的自動思考)」の他「PA(肯定的自動思考)、SOC(首尾一貫感覚)」を前倒しで行った。1名分の結果を国内の学会で発表し、TAE実施により自己効力感、肯定的自動思考、首尾一貫感覚がゆるやかに上昇することを明らかにしたことは、計画以上に進んでいる部分である。残り2名のデータも分析中である。「(5)「TAEシート」「TAEソフト」をイン ターネットで公開し「再帰的日本語教育実践研究法」を発信する」は、平成25年度は、新「TAEシート」を台湾の「TAE研究会」で紹介した他、国内でも松江と徳島で公開勉強会、京都大学での学内公募の勉強会で公開した。 以上の理由で、総合的にみて、おおむね順調に進んでいるといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
研究全体はおおむね順調に進んでいるが、研究計画変更の可能性や、研究を遂行する上での課題もある。 計画変更の可能性があるものとして、効果の実証法が考えられる。研究計画書にも書いたが、「教師の成長」を実証するのは難しい。平成25年度に、前倒しで「GSES(一般性自己効力感)」「PMS&PATS(肯定的気分と肯定的自動思考)」等による効果測定を行い、ゆるやかの上昇という結果を得たが、「教師の成長」をこのような質問紙で測定できるのかどうか、再検討の余地があると考えている。生活一般の出来事による影響や、TAEに限らず教育実習を振り返ることそのものによる効果もあると考えられ、真にTAEの効果を測定していると言えるのかという疑問を払拭できない。平成25年度に実施した3名については、むしろ、インタビュー形式で聴取した内省報告の方が、TAEとの関連を特定しやすかった。インタビューデータは客観性が劣るという考え方もあり慎重を要するが、今後は、インタビュー調査を含むさまざまな方法を検討していきたい。 研究を遂行する上での課題としては、現在までのデータ収集が教育実習生に限定されており、日本語教師に対するデータ収集が進んでいないことが挙げられる。共同研究者とも協力しながら、平成26年度は、日本語教師に対するデータ収集を、積極的に進めていきたい。 平成25年度にTAEを実施した3名は、筆者がステップを読み上げる形でガイディングをおこなった。途中で質問に答えられる等ガイドが同伴する利点もあるが、本研究は、教師(教育実習生)が独力でTAEが実施できるようなツールを開発することが目的であるから、ガイドがいなければ実施できない方法は適切ではない。独力でTAEが実施できるよう、実施マニュアルなどの支援ツールの作成を検討したい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
ノートパソコン等設備機器が予定よりも安価に購入できたため。また、カラースキャナーは大判のものを印刷できる機種で予算内のものがなかったため、次年度以降に検討することとしたため。 大判が印刷できるカラースキャナーで安価なものを購入したい。
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