2013 Fiscal Year Research-status Report
国際家族と学校・NPOをつなぐ母語・バイリンガル教育支援―言語資源育成の視点
Project/Area Number |
25370596
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
松田 陽子 兵庫県立大学, 経済学部, 教授 (80239045)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
乾 美紀 (寺尾 美紀) 兵庫県立大学, 環境人間学部, 准教授 (10379224)
久保田 真弓 関西大学, 総合情報学部, 教授 (20268329)
野津 隆志 兵庫県立大学, 経済学部, 教授 (40218334)
落合 知子 神戸大学, その他の研究科, 研究員 (50624938)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 母語 / 継承語 / バイリンガル / 言語資源 / コミュニケーション / アイデンティティ |
Research Abstract |
1. 国際家族の調査については、(1)24年度に行った35名の調査(7言語)の結果を再度分析し、研究成果を論文として発表した。分析の結果、母語の継承の期待が強いが、家庭内では困難であること、そして、言語力が将来の可能性を広げるということが母語継承動機の一つになっていることが明らかになった。(2)本年度に行った中国系の家族調査では、研究協力者がアンケート調査(53名)とインタビュー調査(5名)を実施し、そのデータの分析を行った。その結果、母語保持を期待する親が98%にのぼることが明らかになった。母語学習の動機として、親や祖父母とのコミュニケーションのほか、中国とのつながりが約20%、将来の可能性が広がることへの期待が28%あり、「言語資源」として期待が大きいことが明らかになった。インタビュー調査からは、日本語・中国語・英語の三言語の育成をめざし、日本と祖国という枠組みだけでなく、子弟が広く国際的に活躍できるよう育ってほしいという意識があることがわかった。 2.母語学習支援のためのウェブサイトは、日本語で作成した内容の一部について、国際家族を対象とする6言語の多言語版を、英語、韓国・朝鮮語、スペイン語、中国語、ベトナム語、ポルトガル語で作成した。サイトを見た地域コミュニティから講演の要請が来るなど、情報発信の効果が現れている。 3.平成23-24年度に行ったカナダ(トロント)調査の結果について、今年度、その分析を「母語学習の動機付け」「社会資源としての母語」という視点から、研究を深化させ、論文にまとめて発表した。多文化を称揚する学校や地域社会の意識に対する統合的動機付け、母語力が多言語・多文化教育資源として活用される例の分析を行った。さらに「アイデンティティ・テキスト」という手法によるバイリンガル教育について、家庭と学校、NPOを連携させる方策として、検討を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的として、国際家族の子弟の母語と日本語のバイリンガル育成をどう支援するかについて、(1)母語・バイリンガル育成に必要な家族支援の課題と学校・NPOとの連携方策の解明、(2)母語・バイリンガル能力の心理的・社会的に人を豊かにする言語資源としての有効性の考察、(3)母語・バイリンガル学習支援のためのウェブと人的交流による当事者、地域社会、研究者の情報共有の方策の探求、の3点がある。 まず(1)を達成するために、国際家族支援のための基礎情報についての調査とその分析を行い、課題を明らかにしつつある。母語支援についての政策提言を行うことを目的とする地域のNPOの担当者との共同研究にも参加し、研究体制を強化することができた。母語支援に関わる学校の関係者や母語教室運営のNPO担当者等への聞き取り調査も行い、連携上の課題を分析している。 (2)の「言語資源」の観点からも、上記の基礎情報調査の分析を行い、その課題の解明を、カナダ調査の考察も参考にしながら行っている。母語と日本語のバイリンガルとして成長した青年たちの聞き取り調査も行い、自分のルーツに関わるアイデンティティを肯定的なものにする上で母語運用力がどのように心理的な効果があったか、社会生活で活用する上で、どのような実利的意義があったかについて明らかにするための基礎資料が得られた。また「言語資源」という概念規定について、さらに明確にし、理解を深めることの必要性が明らかになり、今後の検討課題としている。 (3)については、多言語のウェブサイトを完成させ、ウェブを中心に情報共有の方策の進展を推進している。研究者、教育者、国際家族、行政担当者など、多面的に関係者を集めて、さらに人的交流も含めた情報共有と課題の解明を行っていく準備を終えた。
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Strategy for Future Research Activity |
1. ウェブサイトの多言語化が完成したので、関係の研究者、学校での国際教室担当教員、地域の多言語コミュニティの母語教室の関係者や、国際家族の父母、母語教師の方々とのワークショップ、セミナー等を開催し、学会等での報告も行い、その内容や役割についての研究を深化させ、さらにサイトを改善させながら、人的交流による情報共有を進めていく。 2. 母語と日本語の問題に悩む国際家族からの聞き取り調査、バイリンガルとして活躍する青年たちからの聞き取り調査を広げ、「言語資源」の概念の確立への考察を行う。さらに、バイリンガルになることに成功した動機付けや手法の解明を行う。 3.地域のNPO(たかとりコミュニティセンター)を中心とした「母語教育支援についての政策提言」の共同研究を通じて、情報共有のためのDVDの作成や政策提言文書の作成などを協力して行う。 4.カナダ調査から得た知見をもとに、「アイデンティティ・テキスト」の手法を用いたバイリンガル教育についての実践研究を、ベトナム語等の母語教室で進め、その効果の分析を行う。 5.個人の将来の可能性を広げることも含めた「言語資源」の概念に特化した研究会を開催し、その意義の解明をさらに進め、国際家族や学校関係者、外国人子弟の教育に関わる行政関係者への情報発信を進めていく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
年度末の最後に支払うことになった多言語化のための翻訳料が当初の予定より安くなったため。 ウェブサイトの翻訳の加筆が必要になるので、それに充当する。
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