2014 Fiscal Year Research-status Report
リメディアル教育を必要とする学習者を自律的学習者にするための教授法・教材開発
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25370649
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Research Institution | Chiba University of Commerce |
Principal Investigator |
酒井 志延 千葉商科大学, 商経学部, 教授 (30289780)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
牧野 眞貴 近畿大学, 法学部, 講師 (90581174)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | リメディアル / 英語教育 / 能力帰属意識 / 反復練習 / 倦怠感 / 努力帰属意識 |
Outline of Annual Research Achievements |
文科省の高3を対象にした英語力調査結果は8割近い学習者が落ちこぼれている現状を表した。大学進学率は5割を超えたあたりなので,日本の大学の英語教育はリメディアルが主流になることは明らかである。なぜ,日本の英語教育は,落ちこぼれを生むのか。また失敗した者の意識はどう変化するのか。本研究ではまずこの2点を確認しておく。 学習者は知識や技能を教えられるか獲得するかして短期記憶に取り込む。それを長期記憶にするには内在化させる必要がある。内在化は反復や応用的練習等により行われる。しかし,反復学習は退屈と倦怠感をもたらす。また,応用的練習は成果が見えず,曖昧性が高い。すると,曖昧性に耐え学習者と,避ける学習者ができる。 内在化の失敗は試験結果として表れ,苦手意識を学習者に生じさせる。連携研究者の清田には「中・下位層の学生は中1で英語学習を始めたときは意欲的であったが,難しい,良い成績が取れないなど,一度苦手意識を持つとその意識が大学まで続く傾向がある」報告がある。学習者は努力すれば成績が上がるという「努力帰属意識」を持つが,好成績が取れなくなると,好成績の達成には能力が必要だという「能力帰属意識」に変わる。一旦変わると環境が変わっても,努力しようという気持ちを起こしにくい。 リメディアル学生を調査すると基本的事項が習得できていないので,それについての授業をすればいいと考えてしまう。中学の内容を指導する授業の成果で,情報が短期記憶の中に入り,形式的操作ができるようになる学習者は存在する。しかし,時間が経つと,その知識がまったく身に付いていないことがよくある。それは,能力帰属意識になった大学生は中学の内容を意欲的に内在化したいとは思わないからである。 したがって,本研究では,リメディアル教育の根幹は,もういちど学習者の意識を,能力帰属意識から,努力帰属意識に戻すことであると考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は以下の知見を得た。 1.能力帰属意識の学習者を努力帰属意識に返るためには,教員と教材の要因があると考えられる。教員の要因としては,マズローの所属の欲求を満たすことが重要である。教材の要因としては,学習を通して成長しようという意識が薄い学生を前向きにさせるためには,学習が「おもしろい」と思わせることが不可欠である。 2.おもしろい教材だが,「わくわくする」+「成長する」ものがいいと考える。学習者によってその比率は変わる。リメディアルの学生は,前者の割合が高い方が,ひきつける。 3.授業形態では,アクティブ・ラーニングが適している。仲間で支え合うことで,曖昧性に対する耐性を克服しやすい。アクティブ・ラーニングに参加することよって,自分が成長しようという意識を持たせることだ。研究分担者の牧野先生の実践が「おもしろい」,「わかりやすい」と思わせている良い例だ。 4.リメディアル学習者は,英語が苦手なだけでなく,知的作業が得意でないものも多い。英語が得意でない学習者のレポートを分類すると,4つに分類できる。1) ほとんど何も書いていないかそれと同然のもの。2) 書いてあるが,教員が行ったことや板書を脈絡もなくそのままコピーしたもの。3) 授業の概要をつかんで書いたと判断できるもの。4) 授業で得た知識を認知処理し,自分の既知情報のネットワークに入れたと判断できるもの。最後のものは適切な疑問やコメントが書かれていることが多いが,その数は少ない。そこで,興味深い情報を与え,それをアクティブに取り入れさせ,それを認知処理させ,既知情報と関連させ文章を書く力を養成する授業を実施した。興味深い情報とは,彼らが関心を持つだろうと考えられる映像情報の前後に,前ではわかりやすくするための,後では持つだろうと考えられる疑問についての解説である。実施した結果,学習者の曖昧性に対する姿勢を改善できた。
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Strategy for Future Research Activity |
リメディアル学習者向けの教授法と教材の開発の方針は,おもしろい,わかりやすい,ためになるという順序である。大概の教材は,ためになるが先に来ていることが多く,リメディアル学生の心を捕まえにくい。勉強はおもしろそうだと思わせることが重要である。 1.おもしろい教材としては,トピックが興味深いことが重要。文科省の高3対象の調査によると,「どの程度まで英語力を身につけたいかとの問い」の最多の回答は「海外旅行などで日常会話」の36.7%であった。したがって,リメディアルの学生の関心を引くのは,海外でのいろいろな体験が自分でもできそうだというアプローチだと分かる。それを基にして,異文化を学ぶのはおもしろそうだ,そして成長できると思わせるように持っていきたい。 2.わかりやすい教材としては,カタカナを多用する。日本人の学生の多くは,英語の音感がある程度身に付いているので,英文にカナを振れば,「自分もかっこよく英語を発音できる」という錯覚を持たせることができ,学ぶ気を起こさせる。 3.ためになる文法について,一般的な教科書での英文法学習は,ある課で目標となる文法は,同じ文法の規則が理解と産出ができることを目指す。リメディアル学生用の教科書だと,中学校用のやさしい文法が並ぶ。彼らは習得ができていないにせよ,やったことがあるので,中学レベルの英文法を理解させる授業には興味を示さない。開発する教材では,読むために理解するある程度レベルの高い文法と,使うことをめざす基礎的な文法は分けて指導する。 加えて,CLILの基本理念である「内容」,「言語」,「思考」,「協学」を入れたいと考えている。レッスンが進むにつれ,しだいに,教材のトピックに考えさせる要素を織り込み,クラスメートともに取り組み,日本語のコメントでもいいので,情報の概念化と言語化を指導する。それがリメディアル学生を救う方法ではないかと考えている。
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Causes of Carryover |
2014年度は,CLILという新しい考えに触れることができ,それに関して,主に文献研究やセミナーで研究した。リメディアル教育の対象の学生を相手にする教育では,基礎的な内容の指導に焦点が置かれがちだが,それでは彼らは成長を感じることができない。彼らを伸ばすためには,彼らの知的なレベルを引き上げ,自分が成長しているという実感を持たせることが欠かせない。そのためには,CLILの基本理念である「内容」,「言語」,「思考」,「協学」を,教授法と教材にうまく入れ込むことが欠かせないと考えた。そして,その研究の成果によって,本研究の普遍性を高めることができた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
CLILをどのように活用しているのか,外国の多くの教育現場を視察するために,外国での旅費を充実させることにした。活動拠点を,CLILの第1人者のクリスチアナ・ダルトンーパッファー教授がいるといわれるウィーン大学におき,オーストリアを中心に,日本と同じ英語が外国語環境である国において,日本の英語教育に貢献する教育事例を多く視察する計画である。また,同時に,外国で発表し,幅広く意見を交換したいと考えている。そのための旅費として使うことを予定している。
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