2014 Fiscal Year Research-status Report
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25370749
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
竹中 亨 大阪大学, 文学研究科, 教授 (90163427)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 明治日本 / 西洋音楽 / ドイツ / コンサート / 東京音楽学校 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度に行った研究は、以下のとおりである。 1.その前年度に参加したベルリンでのワークショップでの報告をもとに、近代日本での音楽移転の全体像を把握する研究を行った。この成果は、論文(ドイツ語)にまとめ、ドイツで刊行された論文集S.O. Mueller et al., eds., Kommunikation im Musikleben, Goettingen 2015のなかの一部として、すでに公表された。この研究によって、音楽移転がいかなるメカニズムで進行したかの全容が把握された。 2.音楽移転を日独関係全体のなかに据えた考察を行い、総合的な観点から音楽文化を考察した。その考察の結果は、論文(英語)にまとめた。この論文Myth of the "familiar Germany" は平成27年度に刊行予定のO. Spang氏の編集する論文集のなかで公表される。この研究により、日独間の文化移転の全体像のなかで音楽がいかなる位置を占めるかが明らかになった。 3.音楽文化全体の移転を把握するために、明治期の日刊紙や雑誌を通読した。その際、とくに社会的実践としての音楽会のあり方に焦点を当て、その日本的特性を分析した。異質な文化的財としての洋楽への明治期の反応は、文化移転としての音楽移転を浮彫にするものである。この研究は、研究最終年度としての今年度に予定している書物の執筆の計画において、重要な部分をなすものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究計画で当初、選び出した個別トピックについては、総じてその事実的解明が順調に進行している。洋楽と邦楽がいかなる形で共生したか、東京音楽学校の運営方針が時代とともにどう変遷し、それが同校の活動にどういう形で現れたか、外国人音楽教師の活動がどのようなものであり、それが洋楽の展開に与えた影響はどのようなものだったか、などである。これらに関する史実確認はだいたいのところ終了したと考えている。 研究の結果、明治社会の公私の分野と沿う形で和洋楽が配置されたこと、音楽学校が教育路線と芸術路線の間を揺れたこと、それが外国人教師の招聘や日本時学生の留学派遣等に影響したこと、外国人教師の人脈がベルリンを中心に形成されたこと、人脈に絡んで音楽学校内部に複雑な人間関係が生じたことなどである。さらに、当初想定されていなかったことだが、新聞によって音楽に対する関心のあり方がかなり異なることが判明した。また、この時代の音楽批評のもつ特徴についても、いくつかの興味深い材料が得られた。 また、本研究計画の最終目標は、当該テーマに関する書物の形で研究成果を公表することである。当該年度の末に、その書物の執筆を開始した。その作業は概ね順調に進捗している。取りあげるべきトピックを全部確定するにはいたっていないが、過半の部分につき、執筆の材料はすでに準備できている。このペースで進めば、今年度中の執筆を完了させることは十分可能と思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究計画の最終年度に入って、最終目標たる書物の完成に向けて精力的に作業を進めている。これまで執筆作業は順調に進捗してきた。今後の執筆に必要な素材もおおよそ準備済みであり、したがって作業は今後も順調に進むものと考えている。 以上のように、研究計画全体として見た場合、研究は所期の形で進行しており、そして最終段階に入っている。計画全体に関わるような大きな障害、あるいは方針変更を要する点はない。したがって、本欄に記すべきことはあまりない。 敢えて挙げるとすれば、計画中の著書のなかに、明治期の音楽評論についての章を立てるかどうかがという問題が未だ確定していないことがある。ある程度の材料は手許にあるものの、独立した1章に足るだけの分量があるかどうかは見極めがついていない。他の章の執筆を進めるなかで、この見極めを固めることが可能になろうと想定している。
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Causes of Carryover |
理由の第一は、研究計画立案時に想定していたより、明治期の関係書籍のデジタル化が進んでいる点である。当初は当該期の書物の閲覧のため、国会図書館への頻繁な出張が不可避だと考えて、その計算で旅費を多額に計上していた。しかし、勤務先もしくは近隣の図書館にて閲覧が可能なものが多かったので、旅費支出が予想より少額になった。 また、研究対象の事実把握に研究補助の作業が必要だと考えて、相当の額を予算計上していた。具体的には、研究ノートの入力、資料整理等の作業である。しかし、この面での作業が予想より迅速、かつ独力で消化できたため、謝金支出が予想より少額になった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
著書執筆の作業のなかで、細かい史実の確認のため、やはり国会図書館や、近代日本音楽史料(明治学院大学所蔵)に赴く必要が生じると考えられ、旅費支出は今年度よりかなり増えると見込んでいる。また、昨年度行ったドイツでの史料調査でも補充が必要なことが判明したので、それを実施したい。 デジタル化された図書の閲覧作業を進めるうえで、勤務先自室にあるPCが性能不足であり、これまでも種々の不便を蒙ってきた。そこでPCや関連機器の更新を行って、閲覧作業の迅速化をはかる予定である。
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Research Products
(2 results)