2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
25370763
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
吉田 早苗 東京大学, 史料編纂所, 教授 (00110693)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
遠藤 珠紀 東京大学, 史料編纂所, 助教 (10431800)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 大内裏図考証 / 裏松固禅 / 故実学 / 典拠史料データベース |
Research Abstract |
本研究は、故実家裏松固禅が多量な史料を典拠に、平安京の街路を出発点として、平安宮大内裏を殿舎以下建築の各部分や庭園の樹木に至る要素に分類し、詳細かつ網羅的に分析復元した故実書『大内裏図考証』を対象とする。『考証』が儀式書に類似する構成を持つという新たな視点に着目し、献上本として一応確定している正編の体裁の分析と典拠史料のデータ化に基づき、『考証』の全体像や固禅の執筆意図などを明らかにすることを目的とする。 研究の着手点として、固禅が一応の完成形とした『考証』正編(献上本)30巻の体裁について検討した。彼が『考証』を執筆中であった1788年に内裏焼亡があり、再建に当たり朝廷から諮問を受けて、平安内裏の古制の復元について意見を具申した。90年に固禅の説を取り入れた新造内裏が完成した後、94年に朝廷に『考証』の献上を命ぜられ、97年正編30巻50冊を献上した。その後も固禅は正編の校訂や続編の執筆を続けるが、いずれも稿本しか残されておらず、『考証』の構造が明確な本は、現在宮内庁書陵部に所蔵される献上本のみである。 献上本の体裁を分析した結果、以下のように概括できた。料紙の横界線に従って高さを変え、包括的な大項目から細分化された項目までの項目名および典拠史料が配置され、内容における階層が示されていると思われる。そこで典拠史料の位置情報を、付載される項目名とその相対的位置により示すこととした。 上記の方針に基づき、史料名・引用年月日をはじめとする典拠史料データベースの当初の入力項目を決定し、正編(目録3冊を除く47冊)の入力を開始した。この際には、利用の便宜を考慮し、刊本(『新訂増補故実叢書』)の頁データも収めることとした。入力は順調に進められ、今年度には10,000件以上と推定される入力件数全体の半ば以上まで入力を行い、当初計画を超えて進行することができたと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究で対象とする『大内裏図考証』については、編者裏松固禅が1797年に30巻50冊を朝廷に献上した。通常の書籍ではこれで完成したと考えられるが、固禅はその後も献上した本の校訂と続編の執筆を続けた。そのため一般的に献上本に収められた30巻を正編と称している。また彼の死後内藤広前が校訂した本が『故実叢書』に収載され活字化されて、現在まで流布している。広前が用いた本は明らかではないが、続編が含まれていることから、単純に献上本に拠ったわけではないことは知られる。このように編纂と流布の過程が複雑であるため、『考証』の構造分析には、現在宮内庁書陵部に所蔵される献上本が基礎史料となる。 献上本の体裁の分析により、本書では横界線が施された料紙を用いて項目名等の高さを変化させることにより、大項目から下位に属する項目までの階層性を示していることが明らかになった。そこで典拠史料の位置情報を、付載された項目名とその相対的位置により示すこととした。 引き続き、先行する「近世公家社会における故実研究の政治的社会的意義に関する研究」(裏松科研)で検討したデータ化の仕様を基礎として、典拠史料データベースの当初の入力項目を決定した。主たる入力項目としては、史料名、引用年月日および西暦換算、原本の巻・冊、階層性が明らかになった典拠史料が付載される項目名による位置情報、刊本(『新訂増補故実叢書』)の冊・頁などである。 上記の方針に基づき、正編(目録3冊を除く47冊)の入力を開始した。裏松科研において、史料引用をデータベース化するための試験入力を行ったことによる蓄積があったため、本研究で開始した本格的なデータ入力を順調に進めることが可能になった。入力件数は全体では10,000件以上と推定されるが、今年度にはすでにその半ばを超えて、当初計画の予定以上に入力を進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の研究により、献上本の体裁に基づく『大内裏図考証』正編の外形的な基礎構造を推定することができた。その成果に基づき、典拠史料データベースの当初の入力項目を決定し、引き続いて入力に着手した。この際には、献上本になく刊本に掲載されている、内藤広前によると思われる注に関しても、典拠史料がある場合は入力することとした。入力は順調に進行し、当初計画の予定以上に入力を進めることができた。次年度には作業者もさらに入力に習熟し、今年度以上に入力が進行することと思われ、年度途中で正編の入力を完了することは疑いないであろう。 引き続いて、続編のうち『故実叢書』に掲載された続編のデータベース化を検討する。続編については、正編(献上本)のように完成した形態が存在しないため、正編の状態から基礎構造を類推し、位置情報の入力方法を定めることになる。『故実叢書』掲載の続編は8篇と正編に比較すると量的にはかなり少なく、次年度中にはここまでの入力は問題なく完了すると思われる。完了した時点で、入力項目を検討して確認し、その上で今年度から入力した全データの校正を行い、典拠史料データベースを一旦完成させ、史料編纂所のデータベースシステム(SHIPS)上のデータベースに収めるなどの公開方法を検討する。 データベースの入力と並行して、データ化された蓄積をもとに、まず個々の史料について、種類・分布・引用年次などの固有の性格について全体的な傾向を見る。次いで典拠史料の性格と『考証』の構造との関係、正編と続編の構造の比較、あるいは対象建造物との関係性などを調べ、『考証』の自筆稿本、固禅の書写にかかる史料・典籍類などの関連史料の検討により、その法則性を探り、『考証』の全体像や固禅の執筆意図などを明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
計画を予定通り実施したが、調整の過程で少額の次年度使用額が生じた。 「その他」に合算し適宜使用する。
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