2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
25370767
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
佐藤 全敏 信州大学, 人文学部, 准教授 (20313182)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 宇多天皇 / 寛平御記 / 日記 / 古記録 / 国風文化 |
Research Abstract |
本年度は、「宇多天皇日記」の写本調査のため各地に精力的な出張を行った。所蔵機関のご厚意などもあり、調査は予定以上に順調に完了し、これをうけて本年度は同史料の分析を集中的に行うこととなった。 和歌の興隆や各種年中行事の「国風」化を強力に押し進める一方、中国の政治文化を是とする菅原道真を重用し、漢詩文も愛した宇多天皇は、一見矛盾しているかにみえる。彼のなかで、「漢」的なものと「和(倭)」的なものはどのように認識され、関係づけられていたのか。彼の直接的な認識を知る史料に恵まれないため、その日記である「宇多天皇日記」の文体を国語学的な手法を借りて分析した その結果、同史料は、同時代の他の日記とはまったく異なる文体によって書かれていることを実証的に明らかにすることができた。すなわち宇多天皇は、当時国内で広く用いられていた日常実用文である「記録体」を使う意思が希薄であって、むしろ彼が志向していたのは、そこから離れた中国古典文そのものであった。それは、当時の国内の漢文学である「記」よりさらに中国的な文体であり、ここに彼の中国文化への強い意志を読み取ることができる。彼は中国政治思想に傾倒していたが、日記を書くことも、彼にとってはそうした政治思想の実践であった。 以上が明らかになったことにより、宇多は「国風文化」の進展を推進する一方、「国風」的なものと峻別するかたちで、中国文化を先鋭的・並行的に実践していたことがわかった。ここからは、先鋭的に対立するかのように和・漢が並立したところから「国風文化」が生まれてくるらしいことが見通される。 なお研究結果は、歴史学研究会日本古代史部会例会(東京)で口頭報告を行い、さらに「宇多天皇の文体」と題して論文化した(倉本一宏編『日記・古記録の世界』近刊に掲載確定)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、「国風文化」と呼ばれる文化現象に海外文化がいかに組み込まれていたのかを明らかにするため、その組み込まれ方の構造(文化受容の構造)について、「十二単」「重ね色目」「宇多天皇日記の文体」の3つを通じて具体的に検討し、「国風(日本風)」とされてきたものの内実を明らかにすることを目的とするが、本年度はそのうち「宇多天皇日記の文体」について、写本調査・検討分析・口頭報告・論文化をすべて果たすことができた。3つの柱のうちの1つを終了することができたことになり、おおむね順調に進展していると評価できるものと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
「十二単」と「重ね色目」の史料収集と分析に移る。初年度の経験を生かし、迅速かつ集中的な写本調査を行う。国文学での研究蓄積を十分い踏まえつつ、文学関係資料の収集を行い、また雅楽家や神官の装束も視野にいれて考察を進める。また、分析をより効果的なものとするため、あわせて国文学の専門家や有職故実の専門家との意見交換を進める。具体的には年に3~4回の研究会を行う。
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