2013 Fiscal Year Research-status Report
地域における歴史意識としての古代史像の形成と展開の研究
Project/Area Number |
25370774
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
大日方 克己 島根大学, 法文学部, 教授 (80221860)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 出雲国風土記 / 出雲風土記抄 / 延喜式 |
Research Abstract |
当初計画に沿って出雲国風土記と雲州本延喜式に関係する史料調査と分析に着手した。史料調査は、名古屋大学附属図書館、東京大学駒場図書館、東京国立博物館、千葉県立中央図書館、無窮会図書館、刈谷市立中央図書館等において行い、出雲国風土記、雲州本延喜式および関係古典籍類の実見および写真撮影、複写等による資料収集を行った。 雲州本延喜式については所蔵調査の一方で、松江藩列士録から藍川慎以外にも出版事業に関わった藩士を見出し、また校訂事業や序文の作成過程について松江神社所蔵の関連文書の分析を進め、岡部春平など雲州本延喜式出版の影響をうけて進められた神社調査にかかわる史料の調査、収集にも着手した。これらによって今後、藍川慎と雲州本出版事業の全貌とその背景、影響を明らかにしていくことが可能になると期待される。 出雲国風土記関係については、出雲風土記抄の新写本、富永芳久の『出雲風土記仮字書』原稿本など、出雲国風土記の受容、研究に関する新たな史料を見出すことができた。なかでも出雲風土記抄の分析においては、島根大学附属図書館所蔵桑原家本と出雲古代歴史博物館本(歴博本)の翻刻を作成し、両者の対比を行った結果、歴博本は桑原家本の親本ないし祖本であること、歴博本は序・跋に記している杵築松林寺の宏雄が添削して北島伝之丞に与えた本そのものであるとみてよいことが明らかになった。また『出雲鍬』など諸地誌類の分析とあわせ、岸崎佐久次が風土記抄の調査過程で神社の比定だけでなく復興までしている例も明らかになった。これらの成果は『神話・青銅器・たたら』に発表した。式内社の調査・復興は17世紀に岡山藩をはじめとした他藩でもみられる。したがって出雲国における風土記研究、風土記抄の成立や古代回帰の歴史意識を、出雲国内・松江藩の事情だけでなく、近世前期の全国的な社会動向の一環としての位置づけることにつなげられると考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初計画の出雲風土記抄の調査と分析については桑原家本と出雲歴博本との対比はほぼでき両者の関係についての見通しをつけることはできたこと、出雲風土記抄の成立の背景となる歴史的状況、歴史意識の分析には一部踏み込むことができたこと、出雲風土記俗解抄系写本の調査収集は比較的できたこと、しかしその一方で、雲州本延喜式関係史料の収集、松江神社文書の解読、分析はその一部にとどまった。したがって上記のような成果をあげつつあるものの、まだ残された部分が多く、本格的分析は今後の課題となっている点から、標記の自己評価となった。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までに収集した史料の分析を本格的に進めるとともに、出雲国風土記近世諸写本とその書き込み、風土記注釈書の調査をすすめ、出雲風土記抄などの影響を探る。また『懐橘談』『出雲鍬』『雲陽志』等の記述にみえる地名・神社の古代由来の記述の調査と分析を行い、地誌類の地名・神社の古代にさかのぼる由来の記述を整理する。とくに『懐橘談』は、風土記抄に先行し、出雲国の地誌類で最も早く風土記を引用している。風土記を含む諸書の引用とその特徴を調査、整理し、風土記抄への影響を考察する。そのほか風土記抄に先行する諸書、諸史料の調査を行い、風土記抄成立過程を分析する。そのことにより、出雲の古代意識が風土記を契機にどのように形成されたかを明らかにする。 ついで風土記注釈書、式内社考証などにおける風土記抄の影響の調査、分析をすすめる。とくに18世紀後半以降に成立した内山真龍『出雲風土記解』、千家俊信『出雲国式社考』などの風土記、出雲国式内社考証研究における、地名、神社比定と風土記抄との対比と再検証を行い、その影響を考察する。さらに『出雲神社考』『出雲国神社巡拝記』および諸社と風土記・延喜式由来の分析をすすめる。これらの調査、分析結果をまとめて、地名・神社比定の変遷と特徴を整理し、地域と古代を具体的に結びつける言説の成立と変遷、展開の有様を提示できるようにしたい。 雲州本延喜式の出版事業の全貌と校訂者藍川慎の学問的背景、その影響に関する史料の調査、分析も継続し、前掲の出雲国風土記とあわせ、出雲地域をフィールドとしながら古代に対する歴史意識の形成と展開を明らかにする道筋をつけていくことをめざしたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
資料調査と調査先での資料収集に比重がおかれたことにより、図書・資料購入費が当初予定より少なくなったため。 今後も資料調査が必要になることと、本格的な分析に入るため図書・資料が多く必要になるので、26年度予定額とあわせて調査旅費と図書・資料購入費の一部に充当する。
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Research Products
(1 results)