2015 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
25370778
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Research Institution | The University of Tokushima |
Principal Investigator |
衣川 仁 徳島大学, 大学院ソシオ・アーツ・アンド・サイエンス研究部, 准教授 (10363128)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 中世仏教 / 神仏 / 安穏 / 神威 / 宗教的呪縛 |
Outline of Annual Research Achievements |
最終年度にあたって、昨年度研究報告を行った「日本中世宗教の呪縛」を文章化し、公表した(『洛北史学』17号、2015年)。日本中世の宗教とそれを信仰する人々との関係について考察し、1中世の人々の宗教観、2中世の人々にとって宗教とは何だったか、について、それぞれ「神威」(1)、訴訟における〝所有の長さ〟の表現(2)を素材として検討した。 まずは1について。「神威」と表現され、神仏への恐怖や依存が多く確認できるが、それは訴訟戦術上の誇張であることが多く、実際には「神威」以外の非宗教的要素も重視されていることを示した。中世における宗教性は、常に人々の問題を解決に導く決定的な要素ではなく、政治や経済など現実的な力の前に敗北するケースも多かったように、人々が生活をしていく上で宗教にかける期待はそれ程大きくなかった可能性を指摘した。 次に2について。特に土地をめぐって展開される訴訟において、自らの土地所有の長さを主張する際には、史料上「先祖以来数百年」などというように、百年単位の表記がなされることがあった。人々は永代供養の願望を持ちながら、それが子孫によっては成就され難いと感じてもいたので、そのことが長い安穏の歴史をもち確実に祈りを実践する寺社への期待に繋がった。 このように、中世の人々と宗教との関係は、〝信仰する人々、そしてそれを呪縛する宗教〟といったものではなく、むしろ宗教性とは離れた次元での期待をかけていた。中世の人々の宗教観をより多面的に考察すべきではないか、というのが本稿の主張である。この論考に帰結した研究の過程および公表後においても、市民向け公開講座や講演会等において、この基本スタンスに立ちながら、日本中世の宗教について新たな視点を提供・発信できたと考えている。
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