2015 Fiscal Year Research-status Report
幕末期長州藩における洋学の受容と実践-対外的危機意識の結集と洋式軍艦の建造-
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25370780
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Research Institution | Fukuoka University of Education |
Principal Investigator |
小川 亜弥子 福岡教育大学, 教育学部, 教授 (70274397)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 幕末洋学史 / 軍事科学史 / 技術社会史 / 明治維新史 |
Outline of Annual Research Achievements |
科学技術史上、幕末期に西洋との技術格差が著しかったという点では、造船に勝る分野はないといわれている。本研究の目的は、安政3年(1856)に長州藩が完成させた洋式軍艦「丙辰丸」に注目し、幕末期長州藩における軍事科学的洋学の受容と展開、及び実践の過程をハード面(造兵)から検討することにある。 このような研究目的の下、平成27年度の研究では、有力諸藩の造船競争が激化するなかで、長州藩がロシア人の造船技術を基に自力で「丙辰丸」(スクーナー君沢型)の建造に成功するまでの過程を明らかにするとともに、19 世紀転換期における西洋科学技術の導入が在来技術にもたらした影響について解明した。具体的には、次のような実証研究を行った。 (1)領内における造船所の候補地がいくつかあげられるなかで、最終的には、萩の小畑浦の恵美須ヶ鼻新湊が選ばれた。この間の経緯とともに、造船所の規模や構造について明らかにした。 (2)船材については、江戸と藩地のそれぞれで調達準備が進められるとともに、造船所での人員確保については、三田尻の御船大工のみならず、各宰判から広く技術者が集められることとなった。この間の経緯を具体的に明らかにした。 (3)大型洋式船の建造には、幕府への建造申請、絵図面の届け出のほかいくつものハードルがある。こうした一連の諸手続きから進水式に至るまでの全過程を具体的に辿るとともに、長州藩による洋式軍艦の建造技術が他藩に及ぼした影響についても明らかにした。 (4)長州藩の洋式軍艦の建造と運用に当たり、中心的な役割を果たした人物として松島剛蔵を抽出した。松島剛蔵とは、長州藩の本藩である萩藩の藩医松島瑞ハン(正しくは、「王」偏+「番」旁)の長男瑞益で、蘭学を研鑽したのち、医家を廃して身柄一代兵家に転じ、その折りに剛蔵と改名した人物であることを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度の研究においては、(1)恵美須ヶ鼻造船所の建設に関する経緯、(2)船体材料の調達及び船大工の召集に関する実態、(3) 洋式軍艦「丙辰丸」(スクーナー君沢型)の建造過程及び他藩への技術伝播をめぐる実態を解明するとともに、(4)長州藩の洋式軍艦の建造と運用に当たって中心的役割を果たした人物を抽出することができた。以上を総合的に考慮して、研究が「おおむね順調に進展している」と判断した。 ただし、(4)に該当する人物(松島剛蔵)については、西洋兵学者としての足跡や実像に迫るまでには至らなかった。この点については、研究延長の承認を受けた平成28年度に解明する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
研究延長の承認を受けた平成28年度においては、長州藩の洋式軍艦の建造と運用に当たり中心的役割を果たした松島剛蔵に焦点を定める。具体的には、長州藩の藩政史料や関係史料の調査、資料・文献の収集を実施し、西洋兵学者であり尊皇攘夷派でもあった剛蔵の足跡を生涯にわたって再現するとともに、彼が藩内外で形成した人的ネットワークについて明らかにする。更には、剛蔵が長州藩の海軍建設に果たした役割を解明し、長州藩の洋学史上での彼の位置づけを検討する。
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Causes of Carryover |
平成27年に実施した調査で、補助事業の研究に関わる新たな史料群を探り出すことはできたものの、その量については予想以上に膨大であることが判明した。このため、当該史料群の収集後は、整理・吟味・解釈などに予定以上の時間を費やすこととなり、平成27年度に計画していた他の調査を実施することができなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度については、平成27年度に実施できなかった残りの史料調査を進めるとともに、関係学会での情報収集や図書の購入などを行うこととし、未使用額はその経費に充てる。
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