2015 Fiscal Year Research-status Report
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25370782
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
吉田 昌彦 九州大学, 比較社会文化研究科(研究院), 教授 (10141946)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 天皇 / 公儀権力者 / 藩 / 身分 / 由緒 / 寺法 / 権門体制 / 王権 |
Outline of Annual Research Achievements |
内閣文庫において、『公武大体略記』などの朝幕関係資料、『同役一座申合』などの寺社方記録を調査・複写した。また、京都府立図書館・奈良県立図書館などで知恩院をはじめとする寺社・朝廷関係資料の調査・複写を行った。また、朝廷・幕府・藩・寺社間における相互関係を分析するために成田山新勝寺関係史料・白山神社(白山寺)関係史料のほか、長州藩・長府藩・大聖寺藩に関する藩政史料の調査・複写・収集した。さらに徳川将軍家の菩提寺である増上寺に関する史料を収集した。さらに寺社をめぐる藩と本山・本社との訴訟についての史料を調査・複写・収集した。 これまで収集した史料を使って寺社統制における朝廷・幕府・藩・寺社の四者関係について分析を行ったが、次のような見通しを得るに至った。 ① 藩内に所在する寺社について、藩は、寺社をあらゆる面で支配しようとする指向性を基本的に有しているが、寺社は、藩の支配を受けつつも本山・本社・執奏家・朝廷・幕府の支配を受けている。 ② ①の支配関係にあって、知行関係や藩内の宗教行事について藩は領内社寺への統制を行っているが、由緒や身分については藩権力は支配を貫徹できず、領内の社寺は基本的には本山・本社の支配を受けており、幕府もそれを肯定している。 ③ ②にあるような社寺統制の基本的在り方は、「寺法」「社法」(属人主義)と「藩 法」(属地主義)の相克において、身分・由緒の領域においては「寺法」「社法」が、知行や藩内宗教行事においては「藩法」が機能していたことを示している。 ④ 身分・由緒の領域において本山・本社の上位には朝廷があり、権門体制以来の天皇による国家的身分編成が幕藩制国家下に有効に機能しており、同国家の権威に関する国家システムの主要部分の一つを構成している証左である。また、「藩法」が知行など権力分野で機能していることは封建王権の不完全性の反映と考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
史料調査・複写・収集については、幕府寺社方関係史料に関してはほぼ終了している。 また、朝廷・幕府・藩・寺社を網羅した「一括史料」に関しては、成田山新勝寺や長府藩・長州藩・福井藩・大聖寺藩については基本的に終了している。まだ、西本願寺関係史料・朝廷関係史料や朝廷・寺社間関係史料などに関する補足調査・複写・収集の必要性が残っているものの史料調査・複写・収集は順調に推移しているものと判断される。 また、既に収集した史料を分析して「研究実績の概要」欄で述べたように研究課題について一定の見通しを得ることが出来ている。 なお、より精緻な論理構成と実証を行う必要性があるものの研究課題に関する検討はほぼ予定どおりであると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
① 本願寺関係史料、朝廷関係史料や朝廷・寺社関係史料などに関する調査・複写・収集を行う。また、「岡山藩池田家文書」に関する調査・複写を行う。 ② 天台宗関係教団の予備調査・複写と予備的分析・考察を行う。 ③ これまでの史料分析と考察の総合化を行う。その際、「藩法」と「寺法」「社法」との相互関係性、上部国家機関としての朝廷と幕府の権能と相互関係性を考慮しながら「寺法」の法的構造・運用を検討し中世から近世への連続性・非連続性や変容を明らかにするとともに天皇と公儀権力者との間における宗教的権能の在り方、さらには権威をめぐる構造を国家システムの観点から整理する。 ④ ③の整理をふまえて幕藩制国家の王権に関して「王権並存論」「複合国家論」の当否を検討するとともに権門体制など中世国家から近世国家への連続性・非連続性、中世王権と近世王権との関係、さらには幕末期天皇の上昇に関する国家システム上の前提について総合的に検討する。 ⑤ 上記のことをふまえて論文を執筆する。
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Causes of Carryover |
西本願寺教団における本山ー末寺ー門徒との関係を示す史料の調査・複写・収集を予定していたが、『九州大学百年史』執筆のための調査が重なり実施できなかったため次年度使用額が生じることとなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
H27年度に実施予定であった西本願寺教団における本山ー末寺ー門徒との関係を示す史料の調査・複写・収集にH28年度に行うように計画しているが、次年度使用額13万円は、その際に使用する予定である。
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