2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
25370833
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
太田 出 京都大学, 人間・環境学研究科, 教授 (10314337)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 漁業 / 海洋資源 / 東アジア / 近代 / 帝国日本 / 領海主権 / 海権 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度はこの科研費研究課題の4年目ということで、継続中の文献史料収集と現地調査(フィールドワーク)はもちろん、研究成果の発表へ向けて本格的な準備に着手した。 まず文献史料の収集については、昨年度、台湾中央研究院所近代史研究所蔵の外交部関係の档案のなかに近代~現代時期の領海と漁業に関する公文書を多数発見したから、本年度も12月末~1月初に継続して閲覧・複写を行った。また海軍関連の史料も少なからず発見されたから、それらもあわせて収集した。 現地調査(フィールドワーク)については、台湾の鰹節(日本の鰹・鮪遠洋漁業と関係が深い)工場や漁会(漁業協同組合)を中心に実施し、工場内を参観したり、インタビューを行ったりして、文献史料には見えない現場のさまざまな状況を確認できた。また台湾のみならずフィリピンなど東南アジアを視野に入れるべきであることを痛感した。 このように文献史料収集と現地調査(フィールドワーク)による諸資料の蒐集によって、すでに非常に多くの情報を入手することができた。そのため、本年度では成果公開の第一弾として、その一部を整理・分析して学会報告を行った。2016年11月6日(日)に京都大学・東洋史研究会大会にて報告した題目「清末の「海権」と張謇──中国における領海主権概念の登場」がそれである。当日は多数の聴衆と活発な質疑応答ができ、極めて有益な御意見・アドバイスを賜ることができた。この学会発表の内容は2017年中に同じタイトルで『東洋史研究』上に発表することが決まっている。来年度はこうした成果を足がかりによりまとまった研究成果を発表する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は研究代表者の所属が変更した(広島大学→京都大学)こともあり、前半期はやや本研究課題に本格的に取り組む時間を得られなかったが、後半期からは一段落がついたこともあり、継続中の台湾での文献史料調査や現地調査(フィールドワーク)のほか、研究成果の学会発表なども行うことができたから、ほぼおおむね順調に進展していると考えて問題ない。敢えて問題点をあげるならば、研究協力者の関係もあって韓国での調査があまり進められていない点がある。その点は来年度、韓国の漁業・水産業を専門とする研究者も招いてシンポジウムを開催することで十分に補強することができると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度は本研究課題の最終年度にあたる。そのため、以下の2つを中心に研究をより発展させる方向で考えてゆきたい。 1)シンポジウムの開催 現在のところ、本研究課題と同タイトルのシンポジウム「近代東アジア漁業と帝国日本」を予定している。場所は京都大学。報告者は帝国日本をはじめ、中国・香港・韓国(朝鮮)・台湾・ロシア(北洋)・アメリカ・カナダなどの漁業など海洋資源と多様な国家間関係を研究している方々にお願いしてあり、すでに快諾を得ている。 2)論文集の出版 とりあえず本研究課題の研究成果として太田出(中国、朝鮮担当)・神長英輔(日露関係担当)・林淑美(台湾、東南アジア担当)の3名で『近代東アジア漁業と帝国日本』(仮題)と題する論文集を出版すべく鋭意準備中である。出版自体は汲古書院の承諾を得ており、来年度シンポジウムでの発表、原稿の執筆・提出、出版という手順を踏んでいくことになる。 来年度の研究計画は以上であるが、上述のとおり、西太平洋(東北・東・東南アジア)だけでなく北東太平洋(アメリカ・カナダ)をも含んだ海域の海洋資源に関する比較研究史的な試みの必要性を強く感じるようになった。そこで現在、1)で報告していただいた方々を中心に、海洋資源をめぐる歴史的アプローチに関する新たな研究課題を模索中である。これまで海域史研究は主に海上で行われる交易を取り扱ってきたが、本研究課題では漁業などに見られる海洋資源の問題に中心を据えており、今後より本格的な研究の段階へと進んでいきたいと考えている。
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