2013 Fiscal Year Research-status Report
19世紀後半の中国における地方軍事勢力と社会変容――郷勇と諸反乱
Project/Area Number |
25370837
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | International Christian University |
Principal Investigator |
菊池 秀明 国際基督教大学, 教養学部, 教授 (20257588)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 曾国藩 / 湘軍 / 太平天国 / 地域武装 / 政治的上昇 / 満漢対立 |
Research Abstract |
曾国藩の思想と湘軍の結成について取り上げ、主として彼の著作と族譜などの新史料から彼のネットワークを調査した。彼は中国社会の腐敗と無気力に批判を抱いていたが、団練大臣に任命されると同郷意識と下層エリートの師弟関係に基づく結束力の強い私的軍隊を作り上げた。一八五四年二月に曾国藩は『粤匪を討伐すべき檄文』を出し、太平天国を儒教「文明」に挑戦する異端宗教としてその攻撃性を批判した。また太平軍の中核を占めた広西、広東出身者の長江流域の人々に対する抑圧的な態度を非難し、ローカルなパトリオティズムを煽ることで人々を太平軍との戦いに駆りたてた。それは清朝への忠誠というよりは、太平天国参加者もめざした下層民の政治的上昇を、自分たちがイニシアティブを取って進めようとする試みであった。この点で太平天国と湘軍は競合関係にあり、その故にこそ曾国藩は太平天国との差異を強調し、彼らへの敵意を煽る必要があったと結論づけた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
幸い10月に南京で太平天国史研究の学術討論会があり、中国側の学者と交流して多くの成果を得ることが出来た。また8月には上海、広西、南京を訪ね、湘軍に関する貴重な史料を閲覧、収集する機会を得た。2度の訪中と当初から予定していたノート型パソコンの購入を行った結果、予定よりも初年度に多くの支出があったため、次年度の予算から20万円を用いることになった。しかし研究の深化を図るうえでは大きな効果があった。
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Strategy for Future Research Activity |
長江中流域における湘軍と太平天国の戦いについて、『清政府鎮圧太平天国档案史料』『曾国藩全集』および台北・国立故宮博物院で収集した新史料を元に分析を進める。まずは湘軍が江西で活動するに当たり、彼らを牽制しようとした地方長官(陳啓邁など)との対立に注目し、曾国藩がどのように兵糧確保=地域支配を進めたかについて分析する。また湘軍は九江、安慶の戦いから太平軍を殲滅する包囲戦の手法を取った。これは各部隊が連携出来なかった清朝正規軍との大きな違いで、湘軍における指揮統一の工夫について検討する。 いっぽう安慶攻略戦で顕著だったのは、太平天国の地方軍事勢力化であった。1861年に忠王李秀成は安慶の包囲を解くために湖北を攻撃する作戦に従わず、江西での勢力拡大と従兄弟の李世賢を救援することを優先したために、安慶攻防戦の敗北を招いたとされる。近年洪仁カンの供述書が公開され、これらの史実に関する検証が可能となった。本研究は太平天国後期における中央(洪秀全とその側近)、地方(各地の将軍)の対立、李世賢軍による浙江進出を取りあげることで、これらの通説に再検討を加えたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
8月、10月に中国を訪問して史料収集と学術交流に努めたことに加え、当初から予定していたノート型パソコンの購入を行った結果、初年度の支出額が増え、次年度の予算から20万円を用いることになった。しかし研究の深化を図るうえでは大きな効果があった。結果的に誤差の範囲であるが少額が残として生じた。 中国訪問による史料収集は9月に予定されているが、時期を短めに設定することで予算内に収められる。本年度は報告者がサバティカルであるが、近年中国国内では昆明、広州などで民俗紛争を起因とする無差別テロが発生しており、長期の滞在はリスクが大きい。そこで今年度は日本国内とくに東洋文庫・モリソン文庫の英文史料にリサーチの重点を置きながら、論文の執筆を進めていく。上記残額はこれらのうち旅費に充当する予定である。
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