2014 Fiscal Year Research-status Report
元朝石刻拓影の目録化を通じての中国近世石刻史料学構築の試み
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25370845
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Research Institution | Nara University |
Principal Investigator |
森田 憲司 奈良大学, 文学部, 教授 (20131609)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 東洋史 / 石刻 / 中国近世史 / 元朝史 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、中国近世の石刻を史料としてより有効に利用するために、従来からある中国石刻学の枠をこえて、近世石刻に即した目録記述の方式について検討し、目録作成を実践するとともに、その利用を通して、近世石刻史料学の確立を目指すものである。 具体的な対象としては、元朝に的を絞る。これは、中国史研究の中でも元朝史研究は石刻の利用について独自の進展を遂げ、蓄積があるゆえである。また方法の特色は、従前からある石刻書の類にすでに録文が所載された石刻ではなく、拓影(拓本の写真)から、石刻を「自分で読む」ことによって、史料読解の精度の向上と、叙述形式を含めての史料としての活用可能性の拡大をおこなおうとする点にある。そのために、現在わが国で見ることのできる元朝石刻拓影について目録の作成を試み、石刻の目録記述に必要な項目の選択とその叙述法、石刻からのデータの読み取りのノウハウの蓄積を目指している。現在、国内所蔵の石刻拓影掲載書の大部分の調査を終え、約1500の元朝石刻拓影について目録化をおこなった。また、その目録記述について、名称、年次などについての検討の試みを公刊した。一方で、『三晋石刻大全』を材料に、表形式とは異なる原資料を引用した形での石刻目録作成を試み、『奈良史学』に掲載するとともに、一部修正したものを単行本化した。後者については、関連する研究者に配布し意見を請う作業をおこないつつある。 なお、この研究の目的には、こうした目録化を通じて史料を研究者共有のものとすることもあることを付け加えておきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
26年度で、年記を有する元朝石刻の目録化の作業は一段落し、『奈良大学総合研究所報』には元朝末年までの目録の掲載をおこなうことができた。その限りでは、第二年度の目標は達成され、最終年度におこなう予定である、各項目の再検討を経ての元朝石刻拓影目録の完成、公刊、への準備を終えたと言える。しかし、ひとまず表化された目録の検討を進める中で、いくつかの問題が見えている。 1 とくに問題となるのは、公表した表形式からでは、その目録記述の精度を第三者が確認することが煩瑣なことであり、その一方で原史料の記述をそのまま引用するには表という形式は適さないことである。今年度は、『三晋石刻大全』を材料に、表形式とは異なる原資料を引用した形での石刻目録作成を試みたが、形式として完成したものとは言えない。 2 必要に応じて過去の目録記述を再検討しているが、ケアレスミスや学力不足によるミスを見出すことがままあり、既発表の目録が完成作とは、まだ言えない。 3 目録記述についても、上記の再検討の過程の中で、疑問を生じた点がなくはなく、再度の統一のための作業が必要である。 なお、カバーできている国内所蔵拓影資料の割合を高めることは、たえざる作業課題であり、今後も調査収集を続ける必要があるのは言うまでもない。
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Strategy for Future Research Activity |
27年度は最終年度であり、作業の小結としての元朝石刻拓影目録の完成、公刊をおこなうことは言うまでもないが、それにあたり、さらには今後の中国近世石刻学研究の拡大推進のために、次のような課題が考えられる。 1 近世石刻の独自性についての認識の拡大 中国石刻史料の中で宋代以降の石刻の持つ独自性をより明確に研究者に提示する。 2 目録記述方式の改善 目録の各項目の選択が、第三者の利用に供するのにこれで十分なのかという検討と、石刻の命名に代表されるような、基礎的な項目の確定が必要。 3 目録学的成果の社会史などへの利用 目録の精度と利用可能性の増強に力が行き、最終目標である、中国近世社会史史料としての成果を挙げることがいまだしである。 4 資料へのさらなるアプローチ 拓影掲載書は大部高額なものが多く、ciNiiなどでも所在が確認できない場合がままある。これは中国書一般に言える問題であるが、今後の課題となろう。
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Causes of Carryover |
25年度において、計画の進展が遅れたこと、必要な資料が掲載された石刻書の刊行が見込みより少なかったことなどのため、26年度の研究費額が増加した。26年度においては計画に近い進行がはかれ、研究費の執行は順調であったが、前年度からの申し送り分全額の執行までには至らなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
27年度においては、国内各機関所蔵の石刻書のより徹底した調査、研究協力体制が進化した台湾での近世石刻の調査などを進行することによる旅費支出の増加、および石刻関係文献の収集の徹底、さらに成果報告の充実のための経費の支出(当初の予定より増額が見込まれる)によって、研究費を使用するように計画しており、執行には問題ないと考えている。
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Research Products
(3 results)