2015 Fiscal Year Research-status Report
18世紀「国民国家化」の時代における宗教ネットワークの研究
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25370850
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
西川 杉子 東京大学, 総合文化研究科, 准教授 (80324888)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | プロテスタント / ネットワーク / イングランド国教会 / ハンガリー / イングランド銀行 / ユグノー |
Outline of Annual Research Achievements |
27年度は28年度に引き続き、18世紀半ばのイングランド国教会を中心とした宗派ネットワークについて、ハンガリー・トランシルヴァニアのプロテスタンント共同体およびイタリアのヴァルド派共同体のための救援活動の調査・分析を中心に行った。昨年に引き続き、特にロンドン、オックスフォード、コルチェスター、デプレツェンにおいて史料収集につとめ、イギリスのSPG (The Society for the Propagation of Gospel)およびイングランド銀行を利用して、ロンドンのユグノーと大陸のプロテスタントたちが連帯活動を行ってきたことを明らかにした。イギリスの体制側の機関であるSPGおよびその中心にいたイングランド国教会と、イングランド銀行を、18世紀半ばにおいてもユグノーが影響を及ぼしていたことが確認できた意義は大きい。特に、ユグノーたちの活動の中心にあった、J. J. マジェンディと、イングランド国教会の高位聖職者の文通を入手し、ユグノーの影響を裏付けることができた。マジェンディは、カンタベリー大主教と密接に連絡をとりあい、大主教の承認のもと、ハンガリーのプロテスタントおよびヴァルド派のための義捐金キャンペーンを掌握し、遂行していた。義捐金の規模は、18世紀初頭に行われた義捐金の額と比較すると小規模になっていたが、18世紀中葉の国民国家化を強力にすすめ、大西洋ネットワークを強化していたイングランドが、宗派ネットワークを介してヨーロッパ大陸と連帯していたことは重要である。 この研究は、ハンガリーおよびルーマニアにおいても注目され、デプレツェン神学校が主催した国際会議'International Calvinism: A Unity in Diversity?'(ハンガリー・ベルクフェルドゥ、4月11日-15日)において招待講演および第6回ユグノー国際会議Sixth International Huguenot Conference in London(英国・ロンドン、9月9日ー11日)において講演を行い、高い評価を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
27年度の史料収集およびその検討の結果、より明らかになってきたことは、18世紀半ばの7年戦争と宗派ネットワークの関係であり、そのためにはモルダヴィア公国(現ウクライナ)にイングランドからの支援を得て入植したシュレージェンのプロテスタントの調査・分析が必要であるが、そのための調査はイングランドとハンガリーに限られている。実際、ウクライナやポーランドの史料の多くは、戦争などで失われた可能性が高いが、現地の文書館に行き、確認することができなかったため、全体像の把握はいまだに難しい。しかし、現段階での調査に基づく研究発表(ハンガリーおよび英国における講演)は、18世紀中葉の宗派ネットワークに関する大きな発見として高く評価されたので、28年度は現段階での発見をもとに、研究をまとめたい。
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Strategy for Future Research Activity |
すでに本研究は、国際的にも着目され、今年度9月には英国ケンブリッジ大学に招待され、講演を行うことになっている。ドイツやポーランド、ウクライナの調査が不十分であることは大きな課題であるが、英国、ドイツ、ハンガリーの研究者とも情報交換を行い、7年戦争前後の宗派ネットワークとイギリスの国家政策の関連を明らかすることで、本課題をまとめたい。
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Research Products
(4 results)