2014 Fiscal Year Research-status Report
ハンガリー・ジャコバン主義における共和政思想の転換とその展開に関する研究
Project/Area Number |
25370855
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Research Institution | University of Fukui |
Principal Investigator |
中澤 達哉 福井大学, 教育地域科学部, 准教授 (60350378)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 国際情報交換 / ハンガリー / スロヴァキア / ジャコバン主義 / 共和政 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成25年度と同様、まず方法論的な分析枠の構築を試み、前年度に収集できなかった国内外の研究文献を集中的に入手した。 これと並行して、実証研究を進めるための史料収集と分析を行った。とりわけ「後期ジャコバン主義思想の展開と終結過程」に関する未刊行史料をほぼすべて収集することができた。従来の研究は、1794年5月に急進派帰属を糾合するためにマルティノヴィッチによって執筆された「改革派秘密協会問答書」と、同年同月執筆の市民向けの「自由と平等協会問答書」をもとに、後期ジャコバン主義の「王のいない共和政」論の特色(反君主制・革命的民主主義・政治的自由主義・連邦共和制)を抽出する傾向があった。しかし、当初の想定通り、後期ジャコバン主義の全容の解明はこれら二つの史料のみでは不十分であった。昨年度から収集しはじめていたハンガリー国立文書館R311の未刊行史料やスロヴァキア国立文書館・オーストリア国立文書館等の史料群を渉猟した結果、1794年のジャコバン派逮捕後の警察取調史料の重要性を改めて確認することができた。この取調史料は、マルティノヴィッチとハイノーツィというハンガリー・ジャコバン派の2人の指導的知識人が当局の取調に対して自らのジャコバン主義運動全般を回想・述懐した記録である。なによりも、ジャコバン派の「王のいる共和政」論から「王のいない共和政」論への移行が克明に位置づけられていたのである。 史料解読の過程で、中央ヨーロッパ大学のバラージュ・トレンチェーニ准教授、スロヴァキア科学アカデミー歴史学研究所のエヴァ・コヴァルスカー研究員、オックスフォード大学のロバート・エヴァンズ欽定講座名誉教授と研究打合わせを行い、本研究の新たな解釈の妥当性を議論し、常に客観性を担保するように努めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、1790年代のハンガリー・ジャコバン主義における共和政思想の特性を、前期(1792-93年)の「王のいる共和政」論から後期(1793-95年)の「王のいない共和政」論への転換およびその終結までの展開に焦点を当てつつ、縦軸としては中世ハンガリーの共和主義的伝統と啓蒙絶対主義期のヨーゼフ主義、横軸としてはフランス・ジャコバン主義のほか、ヨーロッパにおけるジャコバン・ネットワークの機能を重視ながら総合的に解明することを目的としている。 この目的に対して、上記「縦軸」の観点に基づく「王のいる共和政」から「王のいない共和政」への移行に関する研究は計画以上に進んだ。すでに論文化が可能である。一方、上記「横軸」に基づく研究、とりわけネットワーク論については必要な研究文献を8割ほど収集したが、いまだその概要を把握することに尽力している最中である。「横軸」の観点からの研究が揃えば、ヨーロッパのジャコバン主義の多様性が確認されるとともに、「王のいる共和政」と「王のいない共和政」との共存という、近代ヨーロッパ共和主義における新たな側面の通時的・動態的把握が可能となるだろう。 以上から、本研究は「おおむね順調に進展している」といえる。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度にあたる平成27年度は、ジャコバン主義における共和政思想の転換および展開に関して研究成果をまとめ上げる作業に従事する。まず、26年度に研究しきれなかったヨーロッパ・ジャコバン主義のネットワークの全容解明に取り組みたい。このような総仕上げの作業によって、ジャコバン主義のヨーロッパ的展開の詳細と近代共和主義の多様な形態とが最終的に確認されるであろう。年度後半からは、以上の史料分析を通じて得られた知見を研究成果として内外の学会で報告するほか、単行本所収論文等としても発表したい。 また、若手研究B(平成23-24年度)の開始から基盤研究C(平成25-27年)の終了に至るまで継続するジャコバン主義に関する研究成果を総合化していくことも重要である。今秋には、「ヨーロッパおよびアメリカにおけるジャコバン主義の共和政思想に関する国際比較研究」として、基盤研究Bに応募する準備も始めたい。 なお、平成27年度までに収集できなかった史料や、研究をまとめる過程で新たに必要となった資料を補完するため、本年度もスロヴァキアおよびハンガリーの文書館で夏期に1週間ほど出張する。その際、前年度同様、バラージュ・トレンチェーニ准教授、エヴァ・コヴァルスカー研究員、ロバート・エヴァンズ欽定講座名誉教授との研究打合わせにおいて、史料の読解と本研究の分析枠および文書解釈の妥当性について助言をお願いし、これを通じて、本研究を一層発展させていきたい。
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