2013 Fiscal Year Research-status Report
国際人道支援のチャリティ的起源に関する研究――近代イギリスを中心に
Project/Area Number |
25370857
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
金澤 周作 京都大学, 文学研究科, 准教授 (70337757)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | チャリティ / イギリス / 国際人道支援 / 慈善 |
Research Abstract |
本年度は、イギリスのチャリティの規模を測るために不可欠の史料の調査を行った。サムスン・ロー編の便覧は、1836年に創刊され、以来毎年アップデートされた、ロンドンの(おもに募金立の)チャリティ団体の網羅的なカタログである。当初は刊行年次順に分析を加えてゆく計画であったが、非常に不完全にしか残っていなかったため、これまでの研究を通じて収集していた19世紀半ばの便覧と、今回入手できた20世紀初頭のそれを比較し、後者にみられる新傾向を探った。 顕著な違いは、分類項目数である。1844年版の便覧では25、1850年版では18に分類されていたロンドンのチャリティは、1912年版になると54に細分されている。ここには単なる分類方法の変化だけでなく、チャリティ団体の側の専門分化が反映されている。掲載団体数も、1844年版では332、1850年版では446だったものが、1912年版では1200以上に増加している。イギリスのチャリティは、世紀後半から20世紀初頭にかけて、より多様に、より多数になった。 この種の便覧は世相を反映していたことも再確認できた。たとえば1912年版では、前年に成立した国民保険法による公的救済の充実がチャリティへの寄付金額の減少を招くのではとの懸念が表明されていた。また、バーデットの便覧という、ブリテン全土のチャリティを網羅したカタログ(1890年から)では、19世紀末から20世紀初頭までチャリティ業界をにぎわした「潜在的な寄付金総額には上限がある」という俗説の是非が、年をまたいで何度も論評されていた。 以上の観察から、次のことが確認できた。19世紀後半以降のイギリスでは、チャリティはますます大きなリソースを抱え、社会の動向に敏感に応じながらますます多様な目的に取り組んでいた。この社会的な「善意」の脈動が、後の「国際人道支援」を準備したというのが本研究の仮説である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「国際人道支援」の起源と生成と展開の実態を世紀転換期のイギリスにおけるチャリティ活動から検討するという目的に対し、当該年度に予定していた計画は、「チャリティ便覧」の網羅的分析であった。結局、欠号が多く、網羅するには至らなかったが、抽出分析により、大きなトレンドをつかみだすことはできた。以上の理由から、研究はおおむね計画通りに進んでいると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
25年度の研究をふまえ、また研究実施計画に従い、26年度は、19世紀半ばに発生したアイルランドのじゃがいも飢饉に対するブリテン側のチャリティ的対応の実態をあきらかにしていく。 ある程度の文献の収集と読解は事前に済ませているので、研究史も概要も把握している。今後は、「国際人道支援」という観点から当時の飢饉対応を観察することの是非を含め、慎重に枠組みを検討し、具体的でありながら、かつ当研究課題の達成に有機的にかかわる知見を引き出して行くことを計画している。
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Research Products
(3 results)