2016 Fiscal Year Research-status Report
近世フランスにおける外国人と都市社会――16・17世紀のリヨンを中心に――
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25370861
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
小山 啓子 神戸大学, 人文学研究科, 准教授 (60380698)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 帰化 / リヨン / 近世前半 / フィレンツェ人家門 / 宮廷 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は主にリヨンで史料調査・収集と研究打ち合わせを行い、これまでの成果の一つとして翻訳の刊行を行った。 史料調査としては、8月に2週間リヨンに滞在し、ローヌ県文書館でリヨンに残存する16-18世紀の帰化状(手稿)をすべて収集することができた。リヨン近世史家Delphine Estierと彼女の自宅で研究打ち合わせを行った際には、本史料を一緒に解読し、取り扱うにあたっての貴重な助言をいただいた。史料読解作業は現在も続けているところである。外国人が取得した帰化状に関しては、18世紀パリの研究はあるが、17世紀以前の、それも地方都市の帰化に関してはほぼ看過されてきた。近世後半のナショナリティの問題を体系的に理解するには、帰化という手続きが王権の下へと一元化され、思想史的にも新たな主権論が展開された近世前半についても解明する必要がある。今後は収集できた史料をもとに、実際に運用された制度を把握すると同時に、誰が、どのような意図をもってこの帰化という手続きを行ったのかについて、できるだけ早期に論文を発表したいと考えている。 さらに、リヨン市図書館では、近世初頭のリヨン在住フィレンツェ人家門について事典的にまとめられた資料を偶然発見し、それもすべて複写をとった。この資料は平成26年度の資料調査で得た在リヨン・フィレンツェ人の遺言書に関する情報と合わせて、近世初頭のリヨンにおけるフィレンツェ移民の姿を照射する重要な史料であることは疑いない。 以上の作業と並行して、数年来継続していた翻訳イェルン・ダインダム著『ウィーンとヴェルサイユ――ヨーロッパのライバル宮廷1550~1780』を刊行した。本書は宮廷比較研究であるが、周知の通りフランス宮廷はイタリア人をはじめとする外国人も多く活躍した「場」であったことを考えると、当該テーマの研究にも一石を投じることができたのではないかと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度はローヌ県文書館で16~18世紀外国人の帰化状(セネシャル裁判所保管史料)を、リヨン市図書館でリヨン在住フィレンツェ人家門に関する資料を収集できたので、今後は日仏歴史学会での口頭発表原稿をもとに、論文として完成させることを目指したい。また、共著として啓蒙書に論文を投稿しており、本年度中には出版される予定である。 本年度刊行した訳書についてであるが、これまでの研究の中で宮廷は貴族の世界として考察されてきたが、近年宮廷に集う様々な人々への関心が高まるにつれ、都市に隣接し、包摂されていた宮廷という、宮廷の存在のあり方そのものが見直されつつある。この意味において、宮廷研究は都市史研究を含みこむことになると同時に、都市史研究においても宮廷が考察対象となってきている。都市と宮廷をつなぐこうした動向に関しても、訳書の刊行を通じて紹介することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
一つ目に、近世リヨンにおける外国人と都市空間に関する論文を仕上げ、投稿する。本論文のエッセンスに関しては、すでに『日仏歴史学会』第30号に掲載しており、投稿先は日本の学術雑誌を予定している。執筆の過程において、史料状況によっては夏にリヨンに行き、最終的な補充をすることも検討している。 二つ目には、本年9月にフランスのオルレアンで開催される学会Parliaments, Estates and Representationでの口頭発表を計画している。その発表原稿は外国雑誌にフランス語で投稿することを予定している。 平成29年度は科研最後の年となるため、以上2つの論文と、すでに投稿済みの啓蒙書の出版を目指し、できるだけ多くの成果を発表していくことに専念したい。
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Causes of Carryover |
平成26年度に出産したため、申請当初計画していた史料調査や学会参加など、海外に出かけられなかった一時期の旅費を繰り越しているが、大半は平成28年度までに使用しており、平成29年度にはそのうちのわずかを繰り越しただけであり、年度内にすべて使用する予定である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
8月のリヨンでの史料調査・収集のための旅費、9月にオルレアンで開催される国際学会での発表のための旅費、国内学会・研究会に参加するための旅費、論文抜き刷り代、啓蒙書献本代などに使用することを予定している。
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Research Products
(1 results)